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いのちと生活を守る地域福祉運動にとりくもう

「解放新聞」(2021.02.25-2982)

 WHO(世界保健機関)が公式に発表している世界最初の新型コロナウイルス感染症の症例から1年がたった。変異ウイルスの感染拡大も報告されるなど、いまだ世界中で感染症の拡大は続いており、これまでの生活が一変した。そして、このコロナ禍で格差と分断、対立が深まり、人種差別をはじめさまざまな人権侵害が浮き彫りになっている。

 日本でも例外ではなく、昨年1月に1例目の感染者が報告されて以降、感染拡大が続き、現在も「緊急事態宣言」が出されている地域がある。

 この間、感染拡大予防策として、国や自治体からの飲食店などへの時短営業要請、在宅勤務や外出自粛要請などが出されるなか、飲食店などへの補償内容は不十分であり、感染症拡大の影響による倒産は1000件をこえ、解雇や雇い止めは8万人以上となっている。預貯金もなくなり家賃が払えず住む場所を失い、食事もままならないなど生活困窮におちいる人が急増している。さらに、新型コロナウイルス感染症拡大が長期化し、自粛生活や在宅勤務でストレスがたまり、暴力をふるうなど深刻化するDVや児童虐待の被害も増加し、精神的な不安から子どもや女性の自殺も増加している。また、感染者や医療従事者、物流を支える運送業者などやその家族にたいする差別や排除、いわゆる「コロナ差別」が深刻化している。

 いのちや生活が脅かされているいま、地域福祉運動がますます重要になっている。

 1月27日、参院予算委員会で、コロナ禍の影響を受けた生活困窮者への支援対策について、菅首相が、「特別定額給付金の再支給は考えていない」「最終的には生活保護という仕組みがある」と発言し、批判があいついだ。また、生活保護の申請を妨げている「扶養照会」問題がとりあげられると、「より弾力的に運用できるよう検討している」と方針を表明し、「扶養照会」手続きの撤廃は否定した。

 生活保護制度は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を権利として具体化したもので、社会のセーフティネットの役割を果たしている。受給は恥ずかしいこと、隠さなければならないことではなく、いのちや生活を守るためにスムーズに手続きができる生活保護制度でなければならない。しかし、生活保護の捕捉率(受給資格のある人のうち、実際に受給している人の割合)は2割程度といわれている。ほんらい生活保護を受ける生活水準にある人の5人に1人程度しか制度を利用できておらず、国際的にみても日本の捕捉率はきわめて低い。

 この背景には、「扶養照会」の問題をはじめ、申請窓口での不当な対応や、申請者を追い返す対応などが散見され支援団体への相談があいついでいる。1月7日の「緊急事態宣言」発令後、厚生労働省から各自治体に、相談者が申請をためらうことがない対応や自動車や店舗、自営の器材などの保有を一定の条件のもと認めるように指示する通知が再度出された。しかし、これまでの対応をはじめ生活保護制度への偏見や誤解も多く、申請・受給へのハードルがなくなったとはいえない。

 また、昨年10月にも「生活扶助費」を減額するなど生活保護費をはじめ社会保障費の削減がすすめられており、制度の改善・拡充を求めていかなければならない。

 今回の菅首相の発言は、コロナ禍における対策とは位置付けが異なる生活保護の利用を提案し、あくまで「自助」を強調している。自粛要請にたいする支援は不十分であり、生活保護を利用しなくてもすむような政策、支援策の拡充やこれまでの支援策の見直しといった「公助」の検討をすすめるべきである。

 さらに、「緊急事態宣言」の延長に関する会見で菅首相は「重層的なセーフティネットにより事業を守り、雇用と暮らしを守り、困難をかかえた方を支えていきます」と発言したが、これまでの支援策「持続化給付金」や「雇用調整助成金」などから漏れた人も多く、困難な状況にある人にしっかりと行き届く支援制度や制度の周知徹底、利用促進をはかることも必要だ。

 私たちは、差別撤廃に向けて「人権のまちづくり」運動をすすめてきた。部落内外を問わず、すべての人にとって住みやすいまちづくりをめざし、困難をかかえた人たちの課題を発見、解決し、人と人との豊かな関係性づくりにとりくんできた。

 現在コロナ禍において、情報や支援が必要な人に届いていない状況が少なからずある。国をはじめ自治体でも新型コロナウイルス感染症に関連したさまざまな支援策がある。ひとり親世帯への給付金や児童手当、学生への支援や生活困窮者への支援などといった独自の支援策が自治体ごとにとりくまれている。

 私たちは社会的支援を必要とする人たちが排除されることのない地域福祉運動をすすめるなかで、生活相談、就労相談といった相談事業において、必要な支援などをおこない問題解決にあたってきた。これまでの地域福祉運動を活かし、都府県連や支部で自治体やほかのNPO、社会福祉協議会などと連携し、情報共有を強化するとともに、多くの人に情報や支援を届ける相談事業によりいっそうとりくんでいかなければならない。

 昨年4月の「緊急事態宣言」時、いくつかの隣保館は休館という対応を余儀なくされた。隣保館は「地域社会全体の中で福祉の向上や人権啓発の住民交流の拠点となる開かれたコミュニティーセンターとして、生活上の各種相談事業や人権課題の解決のための各種事業を総合的におこなう」ことを目的としている。隣保館での生活相談など、いのちと生活を守る相談窓口は重要である。自治体によって状況が違うなか困難な場合も考えられるが、今後同様の事態においても相談業務だけでも隣保館で対応できるように働きかけをおこなう必要がある。

 私たちは今後も社会保障制度の改悪と闘い、コロナ禍における対策としての重層的なセーフティネットの拡充を求めるとともに、感染防止対策をおこなったうえで、積極的に必要な支援や情報を届け、いのちと生活を守る地域福祉運動にとりくもう。

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