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就職差別を撤廃し、雇用促進・就労支援にとりくもう

「解放新聞」(2021.06.05-2992)

 厚生労働省が公表した昨年度平均の有効求人倍率は1・10倍で、新型コロナウイルス感染症拡大前の前年度と比べて0・45ポイント低下し、第1次オイルショック後の1974年度(0・76ポイント)につぐ下落幅となった。また、今年3月の有効求人倍率は、前月比0・01ポイント上昇して1・10倍だった。一方、総務省の労働力調査によると、昨年度平均の完全失業率は2・9%と前年度比で0・6ポイント上昇し、2009年のリーマンショックいらい11年ぶりの悪化となった。新型コロナウイルス感染拡大のなか、政府は持続化給付金や雇用調整助成金の拡充をおこなったが、効果は限定的となり、非正規雇用者など雇用弱者を中心に解雇や雇止めに歯止めがかからず、完全失業者数は36万人増加の198万人に膨らんだ。こうした厳しい雇用情勢のなか、「職業安定法」5条の4(求職者等の個人情報の取扱い)違反となる面接時の不適切な質問や不適切な項目をふくむ社用紙等の提出を求めるなど「差別につながる恐れのある事象」は2019年度、1047件が報告されている。

 この間、「部落地名総鑑」差別事件発覚から45年をへて、インターネット上では被差別部落の所在地一覧や、差別を煽動する情報が掲載され続けている実態がある。この状況のなかで、「部落差別解消推進法」の意義をひろめ、就職差別撤廃のとりくみもいっそう強化することが求められている。

 「部落地名総鑑」事件を契機に、労働省(当時)によってつくられた「企業内同和問題研修推進員」制度は、「公正採用選考人権啓発推進員」制度に引き継がれ、一定の役割を果たしてきた。昨年の従業員100人以上の事業所での「公正採用選考人権啓発推進員」設置率は96・2%と高くなっている。また、鳥取、滋賀をはじめ大阪や奈良など、独自に「公正採用選考人権啓発推進員」設置基準(従業員10〜80人)を設定し、推進員の設置を推進している労働局もある。しかし一方で、公正採用選考実現への旗振り役である推進員が、研修を受講していないなど、「名ばかり推進員」の問題が明らかになり、さらに新型コロナウイルス感染症の拡大は、推進員研修の開催にも影響をおよぼしている。厚生労働省は、公正採用選考実現に向けたとりくみとして、推進員の質をあげていくことを柱にしているが、就職差別撤廃へのとりくみをもう一歩すすめるためには、推進員の位置づけを法的に明記し、その実効性を高めていく必要がある。そして、企業内で公正採用選考が実現できる体制を構築するよう求めていく必要がある。

 「統一応募用紙」のとりくみも、「職業安定法」5条の4が1999年の法改正で追加され、大臣指針も施行され、法的裏づけができた。また、昨年3月に「改正職業安定法」が施行され、ハローワークは、「職業安定法」5条の4をふくむ、一定の労働関係法令違反のある求人者からの求人申し込みを受理しないことが可能となった(求人不受理)。しかし、違反企業にたいする指導が徹底されていない現状も明らかになっている。ハローワークは、違反事象を確認した事業所には、速やかな改善に向け再発防止をふくめた指導・啓発を確実かつていねいにおこない、公正採用選考が実施されているか、その後のチェックまで一貫したシステムを全国に展開していく必要がある。

 経団連は、大学生らが学業に専念できるよう、会社説明会や面接の開始、内定の解禁日を定めた「就活ルール」を今春以降の新卒者から廃止し、通年採用を拡大していく方針を発表した。これにより、学生が主体的に海外留学などをふくめた学業を優先させ、就職活動の時期を選択しやすくなるメリットがある一方、企業による採用の自由化の進行という問題もある。採用の自由化がすすむと、これまで築いてきた公正採用選考の礎がないがしろにされかねない。今後「就活ルール」は政府が主導し、「当面はこれまでの就活ルールに沿った採用スケジュールを踏襲する」と発表している。政府が主導する「就活ルール」に公正採用選考が大前提に置かれるよう求めていくとともに、雇用と職業についての差別待遇の撤廃を定める「ILO111号条約」の早期批准を求めていくことが重要だ。

 昨年7月、セクシャルマイノリティ当事者を支援する団体から、厚生労働省や日本規格協会(JIS)等にたいして性別欄の削除等、履歴書様式の検討を求める要請がおこなわれ、日本規格協会はJIS規格の履歴書の様式例全体を削除した。これを受け、厚生労働省は公正採用選考をすすめるうえで参考となる履歴書様式を定めた。厚生労働省の履歴書様式例では、性別欄が「男・女」選択から任意記載に変更され、通勤時間や扶養家族数、配偶者の有無、配偶者の扶養の義務の有無の項目が削除された。これでは、公正採用選考における根本的な問題が解決したとはいえない。まず、削除されるべき性別欄を、事業主側などの意見を受け記載式で設けたうえで、注意書きに「記載は任意です。未記載とすることも可能です」としていることだ。これでは結果的に意図せずカミングアウトを強要することになってしまう可能性が高い。また、写真貼付欄も、一部の特別な職種以外では採用選考における能力とは関係がない不必要な欄であり、削除を求めていかなければならない。

 就職差別をなくすために労働組合の役割も大きい。企業や事業所の内部からチェックするとりくみも大切だ。また、労働者の権利を守り、差別や人権侵害のない職場をつくるためにも、採用という雇用関係の入り口で、差別を許さないことが重要だ。

 部落解放中央共闘会議と全国共闘は、毎年6月を就職差別撤廃月間と位置づけ、リーフレットを作成し啓発活動にとりくみ、職場での点検活動をよびかけている。また、各府県共闘会議においては、労働局や府県行政・教育委員会などにとりくみ強化の申し入れをおこなっている。

 連合が2019年に実施した、近年に入社試験を受けた人を対象としたアンケート調査では、応募書類やエントリーシートで「本籍地や出生地」の記入を求められたとの回答が56%にもおよぶなど、課題山積を再認識させられる実態を明らかにした調査結果を公表している。こうしたとりくみをとおして、各地で共闘会議や連合との連携を深め、就職差別撤廃のとりくみを強化していこう。

 就職差別撤廃とともに、安定した雇用を促進していくとりくみも重要だ。地域での生活相談とあわせて職業相談活動を充実させる必要がある。

 「生活困窮者自立支援法」にもとづく「自立相談支援事業」を活用し、就職困難者の自立を支援していくことや、「ハローワークの求人情報のオンライン提供」を活用し、隣保館などでの職業相談活動を充実させていくことも大切だ。また、「部落差別解消推進法」の具体化として、隣保館がない地域でもハローワークや自治体などと連携を密にし、隣保館活動の実施と充実を求めていくとりくみが重要だ。

 不安定雇用の増加による格差の拡大と貧困化がすすみ、雇用をめぐる状況は悪化している。正規社員と非正規社員との間には給与面での大きな溝があり、そこでも格差が拡大している。今日、7人に1人が貧困にあえぎ、ひとり親世帯では半数近くが貧困に苦しんでいる。不安定かつ低賃金の労働者が増え続ける現状も方向転換させなければならない。

 そのためにも、今年中におこなわれる衆議院選挙では、庶民の生活を圧迫し、平和を脅かす菅政権からの脱却のために全力でとりくもう。

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