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全国各地で青年部のとりくみを強めよう

「解放新聞」(2021.06.15-2993)

 新型コロナウイルス感染症の拡大は、いまだに収束をみる状況にいたっておらず、都道府県・区市町村に「緊急事態宣言」や「まん延防止等重点措置」が適用され、5月末を期限としていた「緊急事態宣言」の延長を国に要請する自治体もあり、先行きはきわめて不透明だ。

 また、十分な補償もないなか、社会に生じる混乱や矛盾が社会的・経済的弱者に集約され、社会がかかえてきた構造的差別や人権意識の希薄さが露呈している。感染者や医療従事者、その家族などにたいする差別や排除も深刻だ。

 過去にもハンセン病など、特定の病の患者らにたいする差別があった。単純に比較することはできないが、患者本人に加え、家族も差別にさらされた構造は似る。私たちは、差別や偏見により人間としての尊厳がふみにじられた歴史を直視し、教訓化していかなければならない。

 ハンセン病元患者にたいする国の隔離政策を違憲と断罪した国家賠償請求訴訟の熊本地裁判決から、5月で20年を迎えた。1940年代以降は薬で治るようになり、1960年にはWHOが外来治療を勧告していたにもかかわらず、1907年にはじまった強制隔離政策は、「らい予防法」が廃止される1996年まで約90年間もの長期にわたり続いた。

 家族やふるさとから引き離された療養所という名の隔離施設での生活を余儀なくされ、妊娠中絶や断種が強制された。家族に偏見がおよばないよう偽名を使うなど、人間らしい生き方ができなかった苦しみは想像を絶する。

 熊本地裁判決は国の責任を認め、当時の小泉純一郎・首相の謝罪につながった。その後2016年6月に判決の出た家族訴訟では、地域から排除されたり就職や結婚で差別を受けたりするなど、元患者と同様に苦しんできた家族への被害も認められたのである。国はこの判決を受けて、「ハンセン病家族補償法」を整備した。

 しかし、「ハンセン病家族補償法」施行から2年がたっても、申請したのは対象者の約3割にとどまる。ハンセン病患者の家族だった過去を、家族や周囲の人に知られてしまうのではという恐れが申請をためらわせている。この事実を私たちは重く受け止めなくてはいけない。

 「らい予防法」廃止から現在にいたるまで、差別や偏見は依然としてなくなってはいない。新型コロナウイルス感染症患者においても、完治・退院した元患者らへの差別はなくならない。家に張り紙や投石、インターネット上でも個人特定や誹謗中傷がおこなわれている。さらに、入院拒否者らに罰則が科せられるなど、ほんらい保護するべき、寄り添うべき患者らに強権執行を認めるのも当時の風潮と重なる。

 差別や偏見を放置し続ければ、その先に待つのは排除・隔離、そして虐殺だ。教訓とは何か、社会的弱者に視点を据えた、一人もとり残さないとりくみが重要だ。部落解放運動にとりくむなかで、一人ひとりが仲間とのつながりや社会とのつながりを捉えなおし、たった一人にあらわれた困難をも見捨てない、そうした部落解放運動を構築していこう。

 感染症対策のたび重なる失敗により日常生活の制約が長期化しているが、「自助」を前面に押し出し、何かあれば「強制はしていない」と言い逃れのできる無責任な「要請」に終始する国の姿勢は、差別や貧困を深刻化させている。そして、補償などを求める「生きるための声」があがると、「同調圧力」がその声をかき消す。そうした人権状況が後退しているといわざるを得ないなかで、人権確立社会をめざす私たちのとりくみは重要なものとなる。

 この間「部落差別解消推進法」をはじめ「ヘイトスピーチ解消法」「障害者差別解消法」「アイヌ施策推進法」の個別課題にかかわる法律が制定・施行されたが、社会的マイノリティにたいする差別と暴力が公然とおこなわれている。ネット上の差別の規制をふくめ、それぞれの課題を共有しながら、法律の具体化や実効性ある政策を求めるとともに、差別の禁止をふくむ包括的な人権の法制度確立に向け、連帯・協働のとりくみを強化しよう。

 発生から58年を迎えた狭山事件における狭山第3次再審請求について、この間46回にわたる三者協議がひらかれるなかで、241点にもおよぶ石川一雄さんの無実を証明する新証拠が提出され、石川さんを有罪とする確定判決はすでに崩れ去っている。

 今年は、弁護団から鑑定人尋問を裁判所へ求める方針が出されるなど、再審開始の扉をこじあけるための重要な局面だ。感染対策を講じながらになるが、工夫をほどこしながら、各地で情宣活動や学習会、署名活動や要請ハガキ運動など、青年の力を結集し「石川無実」の世論を高める運動を展開していこう。

 また、提訴から5年が経過した鳥取ループ・示現舎にたいする裁判は、今年9月に判決が出る見通しとなった。この裁判は、就職差別や結婚差別のもととなった「「部落地名総鑑」の原典「全国部落調査復刻版」」の出版禁止などを求めるだけでなく、部落差別は社会的にも法的にも許されない社会悪であるという社会意識形成や法整備のための重要な闘争だ。部落差別煽動をけっして許すことなく、裁判闘争勝利に向け、連帯・支援を拡大しよう。

 新型コロナウイルス感染症の拡大は、私たちの活動にも大きな影響を与えている。とくに、都府県の枠をこえた交流や全国的な集会などは依然として開催困難な状況が続いている。

 しかし、オンラインでの会議や集会の開催など、この間の中央青年運動部長会議や全国青年部長会議などで報告・交流されてきた。今後も実践交流をおこない、活用法を議論しながら、対面で集まることが難しいなかで、仲間とのつながりを絶やすことなく、とりくみを強化しよう。これらのとりくみは、対面開催が難しい今日のためだけのとりくみではない。感染拡大が収束した将来の活動にもつながる青年らしいとりくみである。

 今年の感染拡大状況をふまえ、8月に予定していた部落解放第53回全国高校生集会・第65回全国青年集会は、学習会形式のオンライン配信で準備をすすめていく方針となった。初めての試みであるが、各地での活動・実践を前提に、創意工夫によって集会を組み立て、開催成功に向け青年の力を結集し、青年運動の前進をかちとろう。

「ひろげよう仲間の輪! 深めよう仲間のきずな! 〜差別と戦争を許さない社会をつくろう〜」と掲げた2年前の部落解放第51回全国高校生集会・第63回全国青年集会の全体集会で(2019年8月17日・鹿児島市)

「ひろげよう仲間の輪! 深めよう仲間のきずな! 〜差別と戦争を許さない社会をつくろう〜」と掲げた2年前の部落解放第51回全国高校生集会・第63回全国青年集会の全体集会で(2019年8月17日・鹿児島市)

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