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「子どもの権利条約」を基盤とする総合的な子ども政策を実現しよう

「解放新聞」(2021.06.25-2994)

 日本政府が、国連「子どもの権利条約」(1989年採択)を1994年に批准してから27年が経過した。

 多くの国ぐにで、「子どもの権利条約」の理念と子どもの権利の概念が社会に浸透し、条約の子どもに関する施策に反映されるなど条約の具体化がはかられている。そうしたなかで、日本では、なかなかすすんでいない現状がある。

 本来、国が「子どもの権利条約」を批准するということは、条約の趣旨にそって国内法を整備するとともに、条約の履行状況について5年ごとに報告する義務を負うことを意味している。

 しかしながら、日本では、いまだに子どもの権利保障を基本にした総合的な子どもに関する基本法が制定されておらず、政策においても縦割り的な行政がおこなわれ、子どもの人権侵害がくり返しおきている。

 子どもの自死、虐待、いじめ重大事態の認知件数は年ねん増加している。また、ユニセフが2020年に公表した調査結果では、日本の子どもの精神的幸福度はOECD38か国中37位、ひとり親世帯の相対的貧困率は50%にちかくOECDのなかで最高水準にある。

 国内の各種調査にもとづく統計や国際比較において、子どもに関連するさまざまな客観的な数値が、日本の子どもの置かれた状況が危機的状況にあることを如実に示している。

 そしていま、昨年来の新型コロナウイルス感染症の影響による経済活動の停滞が、保護者の失業や所得の減少というかたちで、ひとり親家庭など厳しい状況に置かれた子どもたちを直撃している。

 日本政府が「子どもの権利条約」を批准以降、わが同盟も参画する「子どもの人権連」ほか多くのNGO、教職員、研究者、そして当事者である子どもたちをはじめ、多くの関係者が、「子どもの権利条約」を具体化する実践にとりくみながら、条約の普及と定着に向けて、国や地方自治体など関係機関に働きかけるなど活動を展開してきた。

 こうした運動の成果もあり、国内においては、神奈川県川崎市(2000年)が「子どもの権利に関する条例」を初めて制定したのを皮切りに、子どもの権利条例の制定、個別条例のなかで子どもの権利にふれているものや、子どもの権利の普及・推進に関する事業の実施など、100をこえる地方自治体において、国に先行するかたちで、「子どもの権利条約」をふまえた施策がすすめられてきた。

 近年では、2016年に改正された「児童福祉法」のなかで、「子どもの権利条約」に明示的に言及したうえで条約の一般原則も反映し、これらの原理が「すべて児童に関する法令の施行にあたって、常に尊重されなければならない」(1〜3条)と定めたのをはじめ、「子ども・若者育成支援推進法」(09年)、「教育機会確保法」(16年)、「成育基本法」(18年)、「子どもの貧困対策推進法」(19年改正)など、条約およびその一般原則に言及する立法例も増えてくるなど、省庁別、分野別という課題を残すものの、国レベルで「子どもの権利条約」を施策に反映させようとする動きもあらわれてきている。

 こうしたなか、「子ども庁」の設置など、子どもに関する総合的な政策議論が活発化している。

 自民党は、「『こども・若者』輝く未来創造本部」において、「こども庁」創設をめぐる議論をすすめ、6月3日、子ども庁創設に向けた緊急決議をとりまとめた。公明党は5月31日、経済財政運営と改革の基本方針2021等に向けた提言のなかに「子ども家庭庁(仮称)」創設や「子ども基本法(仮称)」制定、「子どもコミッショナー(仮称)」設置を盛り込んだ。また、立憲民主党も同日、「子ども省」創設などを盛り込んだ「子ども総合基本法案」を議員立法として衆議院に提出した。

 くり返しになるが、各党が子どもの権利に高い関心を寄せて、政策立案に前向きにとりくむことを歓迎したい。

 ここで肝となるのが、他の国連人権諸条約にも共通することではあるが、現在創設が検討されている新たな子どもに関する省庁をめぐる議論が、「子どもの権利条約」にもとづく、子どもの権利の総合的・包括的保障をめざしてすすめられる必要があるということだ。

 つまり、子どもに関する施策について、責任と権限をもった子どもに関する新たな省庁の創設と併せて、子どもの権利を包括的に保障する子どもに関する基本法の制定、子どもの権利擁護・救済のための独立機関の設置を三位一体でおこなうことが必要なのである。

 今秋までに、衆議院選挙がおこなわれることが確定しているなかで、にわかに巻きおこっている「子ども庁」論議ではあるが、関係省庁の省益と権限を巡っての組織論に固執することなく、待ったなしの状況にある子どもたちの命を守り、子どもの最善の利益をはかるための政策論議をすすめてもらいたい。

 日本政府が「子どもの権利条約」を批准した1994年、当時の文部省は、「子どもの権利条約」は主として途上国を対象としたもので、条約の発効によって法令等の改正の必要はないとの認識を示した。たとえば、最近話題となっている校則についても、学校の責任と判断で決定されるべきものだとし、子どもの意見を聞くことを制限してきた。一例ではあるが、これが当時の一般的な理解と認識であった。

 あれから27年、「子どもの権利条約」と子どもの権利への理解はどれほど深まってきたのだろうか。

 「子どもの権利条約」は、子どもを権利行使の主体と位置づけ、大人と同様ひとりの人間として人権を認めるとともに、保護や配慮など子どもならではの権利を有すると定めている。

 しかしいまだに、日本社会では、親の離婚協議の場面などで、「親権」という文言が飛び交っているのが現状である。私たち一人ひとりがもっている「子ども観」を根本から問い直し、社会レベルでの転換が必要である。

 折しも、本年5月には、大谷美紀子・弁護士が、日本人初の国連子どもの権利委員会の委員長に就任した。

 さらに、文部科学省は、6月8日付で、行き過ぎた校則を見直すようにとの通知を全国の教育委員会に出した。そこには、子どもたちの実情、社会の常識、時代の進展など、考慮すべき事項が例示されている。

 子どもたち一人ひとりの声が、これまで微動だにしなかった国を動かしたのだ。

 いま、子どもの権利と子ども政策をめぐる歴史的な大転換点を迎えようとしている。

 子どもたちの置かれた実態と子どもたちの声を届け、「子どもの権利条約」を基盤とする総合的な子ども政策を実現しよう。

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