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「全国部落調査」復刻版出版事件の控訴審に勝利しよう

「解放新聞」(2021.11.15-3008)

 2016年から5年にわたって闘ってきた、鳥取ループ・示現舎にたいする「全国部落調査」復刻版出版事件裁判の判決が9月27日に出され、東京地裁民事第12部・成田晋司・裁判長は、「「全国部落調査」の公表により結婚や就職で差別を受ける恐れがある」とのべ、大半の原告のプライバシー権侵害を認めたうえで、復刻版の出版の差し止めとインターネット上でのデータ配布禁止や二次利用の禁止を認め、原告235人のうち219人にたいして合計488万6500円の損害賠償を認めた。しかし、その一方、原告が主張した「差別されない権利」の侵害を認めず、また部落出身であることをネットや新聞などですでに公表している23人のプライバシー権侵害を認めなかった。また、「全国部落調査」の一覧表に現在の住所地・本籍地が掲載された原告がいる25の都府県は差し止めを認めたが、16の県を差し止めから除外した。裁判は、もちろん負けたわけではないが、勝ったというにはあまりにも中途半端な判決となった。もちろんこんな中途半端な判決をわれわれは望んでいない。そのため原告団および部落解放同盟は、10月11日に東京高裁に控訴した。

 この判決にはいろいろな問題点もあるが、評価できる点もある。

 第1点目は、被差別部落の一覧表を公開することは、プライバシーを違法に侵害すると判断したことだ。

 裁判では、被告鳥取ループは、地名は特定の個人の人格と結びつくものではないからプライバシーの侵害にはならないと言い張ったが、判決は、「(*地名リスト)にあることが他者に知られると、当該個人は被差別部落出身者として結婚、就職等の場面において差別を受けたり、誹謗中傷を受けたりするおそれがあることが容易に推認される」とのべ、原告ら個人のプライバシー権・名誉権を侵害する違法な行為となることを認めた。

 2点目は、「全国部落調査」と「部落解放同盟関係人物一覧」の公表による損害賠償を認めたことだ。

 裁判では、被告鳥取ループは、部落のリストを公表しても被害は出ていないとくり返したが、判決は、「被告Mは(東京法務局長から「説示」を受けて)遅くとも2016年3月末までには、本件地域一覧の公開が原告らのプライバシーを違法に侵害するものであることを認識していた」が、削除しなかったので「損害賠償責任を負う」と賠償を認めた。

 3点目は、被差別部落の一覧表の公開は人格権を侵害する行為であり、損害賠償に加えて差し止めも認められると判断したことだ。

 裁判で鳥取ループは、「同和地区の研究をする自由や表現の自由」などを盾にして公表することを正当化したが、判決は、部落の一覧表公開は人格権(プライバシー権、名誉権)を侵害する行為であり、損害賠償に加えて差し止めも認められると判断した。また、インターネットの掲載についても「削除および公表の差し止めを認めるべきである」とネットのデータ掲載の差し止めを認めた。

 4点目は、部落差別が残っており、地名公表は結婚・就職で深刻な被害を受ける恐れがあることを認定したことである。鳥取ループは裁判で部落差別はもう存在しない、部落解放同盟がみずからの利権のために勝手に差別があるといっているに過ぎないと差別の存在を否定したが、判決は「原告らが受けるおそれのある損失は結婚、就職等において差別的な取扱いを受けたり、誹謗中傷を受けたりするという深刻で重大なものであり、その回復を事後に図ることは不可能ないし著しく困難というべきである」と明確に差別の存在を認めた。

 一方、判決にはまったく評価できない問題点も多い。

 一番大きな問題点は、「差別されない権利」を認めず、プライバシーの侵害だけで判断する方法をとったため、結果的に25の都府県だけを差し止めの対象とし、16の県を除外したことだ。原告は、憲法14条や国際人権条約で明確に「差別されない権利」が謳われていることを主張したが裁判所はこれを採用しなかった。

 裁判所の考え方は、①部落差別はまだ残っており、解消されたとは言い難い。地名一覧が公表されれば、身元調査に利用されて結婚や就職で深刻な被害が出る恐れがある。しかし、②被差別部落の地名を出すことが差別になるという法律がない。その一方、③地名一覧の公表は、そこに現住所や本籍を置いている原告のプライバシーを侵害することは明白。だから裁判所としては、プライバシー侵害で原告らの訴えを裁くことにする。④プライバシー侵害という観点で裁く場合、地名一覧表に現住所・現本籍のないものは、プライバシーが侵害されたと認められない。また、⑤原告がいない県は、そもそもプライバシー侵害が発生しないのだから差し止めの対象にならない。だから、⑥プライバシー侵害が認められる原告が一人もいない県と原告がいない県の差し止めはできない――というものだ。

 しかし、これはまったくおかしい。部落差別の現実から考えれば、すべての地域、リスト全部が削除されなければならないのに、差し止めが認められた県と認められない県にわかれた。またプライバシー侵害が認められた原告と認められない原告にわかれた。こんな矛盾したおかしな判決は受け入れることができない。

 2点目の問題は、カミングアウト(名乗り)とアウティング(さらし)の違いを理解せず、部落出身であることを公表しているものは、プライバシー侵害を認められないとして、23人のプライバシー侵害を認めなかったことだ。

 裁判官はみずから部落出身だとインターネットや新聞などで公表している人は、すでに部落出身だと社会に知られているのだから、被告鳥取ループが「誰々は部落出身者だ」とネットにさらしたとしてもプライバシーの侵害にはならないと判断した。裁判官はいわゆるアウティングとカミングアウトは根本的に違うことをまったく理解していない。

 部落解放同盟は10月11日に東京高裁に控訴した。東京高裁は東京地裁ほど長い時間はかからないと思われる。この裁判に勝つために部落解放同盟の各都府県連や支援者にいくつかのとりくみを提起したい。

 まずひとつは、判決の内容や裁判の成果と問題点を学習する報告集会や学習会を各地で開催してほしい。

 2点目は、判決の評価できる部分をきちんととりあげて、自治体にインターネットにあふれる差別情報の削除のとりくみを求めよう。判決では被差別部落の一覧表の公表は身元調査を容易にする行為であり、原告ら個人のプライバシー権・名誉権を侵害する違法な行為だと明確に違法性を認めた。この判決を根拠にして全国の自治体に踏み込んだ削除要請にとりくむよう要請しよう。

 3点目は、「一覧表の公表は身元調査を容易にする違法な行為」とした判決をふまえて、さらに各地でモニタリング活動を広げていこう。

 4点目は、ほかでもない差別を禁止する法律を制定する運動を強めることだ。今回の裁判では、結局中途半端な判決しか勝ちとれなかったが、それは部落差別を禁止する法律がなかったためだ。部落の所在地を公表することは差別だ、被差別部落の関係者の名前を公表することも差別だというはっきりした法律をつくらない限り、根本的な解決はない。

 5点目は、民間ネット事業4団体にたいする削除要請だ。インターネットによるさまざまな事業をおこなっている一般社団法人電気通信事業者協会、一般社団法人日本インターネットプロバイダー協会などの4つの団体にたいして、東京地裁の判決を根拠にしてあらためて4団体が自主的に削除するよう迫ろう。

 裁判は控訴審に移った。まだ何年かかかると思うが、完全勝利まで闘い抜こう。

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