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天皇制の強化を許さない広範な闘いをすすめよう

「解放新聞」(2022.01.25-3015)

 昨年、皇族女性が一般人男性と結婚したことが報道された。戦後の女性皇族で初めて「納采(のうさい)の儀」などの儀式をおこなわず、皇籍離脱にともなう一時金も支払われないという異例ずくめのものとなった。結婚した男性の母親の金銭トラブルが報じられたのをきっかけに、週刊誌やインターネット上でバッシングがあいつぎ、女性皇族が「複雑性PTSD」と診断されたことが明かされた。いくら皇族であろうと結婚は、憲法第24条で「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」と定められており、個人の意見が尊重されなければならない。同時に、こうした過熱報道に見られる天皇制への賛美と強化、政治的利用の拡大・強化を警戒しなければならない。

 以前、京都精華大学の白井聡さんの「戦後の国体とその危機」をテーマに天皇制を考える講演を聞いた。講演のテーマである「国体」とは一般的には戦前の「天皇を中心」とした日本の国のあり方、体制を指す言葉である。白井さんは「国体」のもっとも重要な観念は「国家家族観」、すなわち「日本臣民=天皇陛下の赤子(せきし)」という考え方であるとし、各藩ごとにばらばらだった日本を明治維新時に「国民国家」として統治するために、当時の父権を中心とした「家族」のかたちをそのまま国家に置き換え、天皇を「大きなお父さん」だと理解させることで国民国家化をおしすすめたと指摘した。天皇制ファシズム国家の温床となった概念としての「国体」は敗戦により公的には廃絶されたことになっているが、戦後もアメリカは日本を統治するために天皇制を巧みに利用し、「菊=天皇」と「星条旗=アメリカ」が結合することで、アメリカを頂点とする「戦後の国体」ができあがった。戦前は「天皇」に愛されていると信じた国民が、戦後はアメリカに守られていると信じることで、世界で類を見ない卑屈な対米従属国家ができあがったと強調されていた。

 また、、明治維新の1868年から敗戦の1945年までの77年間を「戦前国体」の時代と位置づけ、「明治」=形成期、「大正」=安定期、「昭和」戦前期=崩壊期として「戦前国体」が崩壊にいたった。一方で「戦後国体」は1945年から1970年代前半=形成期、1970年代から1990年前後=安定期、1990年から現在=崩壊期と位置づけ、戦前と同じ崩壊の歴史をくり返していると指摘している。近年の安倍政権による統治の崩壊、国家の私物化の常態化、その後の菅政権による新型コロナウイルス対応などの混乱は戦後国体の崩壊期が最終段階にあることを示しているとし、敗戦の1945年からちょうど77年目にあたる2022年が日本の歴史的に見ても最重要な年になるとのべた。

 戦後国体の崩壊期が最終段階にあることを示す事態がおこっている。2019年4月1日、日本政府は平成に代わる新元号を「令和」とした。新天皇の即位にともない、5月1日から切り替わった。「生前退位」による天皇の譲位であり、高齢を理由とした退位となった。そのきっかけは、平成天皇が2016年8月に出した「象徴としてのおつとめについての天皇陛下のお言葉」である。内容は、被災地への慰問、戦跡地慰霊をはじめ、全国各地を歩き、人びととふれ合うことが「天皇の象徴的行為」としてもっとも大切であり、「全身全霊をもって」それにあたってきたが、高齢により果たせなくなるという訴えだった。また、「お言葉」では「国事行為や公務を限りなく減らしていく」ことや、「摂政を置く」ことは、解決策にはならないことを示した。天皇による政治にたいする問題提起であり、憲法違反の疑いさえ指摘される思い切った発言だった。憲法を改悪し、天皇制の政治利用を強化させ、いつか来た戦争への道をたどろうとしていた当時の安倍首相は、この発言に度肝を抜かれたであろう。

 この発言を受け、政府は「皇室典範改正」という議論を避け、一代限りの「生前退位」を認めて特別立法という、いわば本質議論を避け、逃げ切る策を講じた。

 2021年末、皇室のあり方に関する政府の有識者会議は、先細る皇室対策として①女性皇族を結婚後も皇室に残す②旧宮家の男系男子を養子縁組で皇族に入れるの2案を軸に答申をまとめた。「生前退位」を認めた特別立法の付帯決議で、「安定的な皇位継承」「女性宮家の創設」の速やかな検討を求めたことに対応したものだった。しかし、それ以前に安倍・菅内閣は、「男系男子」「万世一系」神話を守りたい安倍元首相やその背景にある日本会議のメンバーに忖度(そんたく)し、有識者会議の開始を独断で2021年3月まで引き延ばしている間に、つぎの皇位を継承するのは、現天皇の弟であるかのように装うために2020年11月8日、憲政史上初めての「立皇嗣(りっこうし)の礼」を実施した。国民の相当な割合に浸透している「女性・女系天皇」容認の芽を摘み、皇位の安定継承を政府の独断で皇族減少対策にすり替え、ときの政権のために、天皇制を政治利用したことを断じて許してはならない。

 私たち部落解放同盟が、憲法改悪の阻止を掲げ、天皇制の政治利用と強化に反対するのは、「戦争は最大の差別である」という言葉に集約される。、それは、日本が戦争へと突きすすんできた歴史的経過を見れば明らかだ。1937年には日中戦争を引きおこし、1938年に「国家総動員法」を制定した。この法律は、戦争の遂行のために人的・物的物資をすべて政府が徴用できるという法律だ。「国家総動員法」はこれらの統制を具体的に定めなかったので、個別的な統制は勅令(天皇が発した法的効力のある命令を指す)によりおこなわれた。

 言論出版統制は、特高警察でよく知られているが、国や軍、皇室などへの批判が処罰されたばかりか社会主義や共産主義なども弾圧された。必要とあれば新聞や出版物の掲載の制限を規定し、検閲もおこなわれ、言論の自由は完全になくなった。

 1940年には行き詰まり、戦時体制となり、政党の争いで政治を混乱させるのはよろしくないという考えから、政党、労働組合がつぎつぎと解散し、大政翼賛会が誕生した。大政とは天皇の統治権のことで、それに賛成(翼賛)する会という意味だ。1942年には、水平社も「言論集会結社等臨時取締法」(1941年施行)によって強制的に消滅させられた。

 2012年12月に発足した安倍政権は、「戦後レジームからの脱却」を訴え、日本近代史の再解釈をおこなう、歴史修正主義を宣言して出発した。その後、2013年の「特定秘密保護法」、2015年の「安全保障関連法(戦争法)」、2017年の「組織的犯罪処罰法(共謀罪法)」など、憲法理念をふみにじる法律を、矢継ぎ早に成立させてきた。自公政権は、天皇制を政治利用し、憲法改悪をおこない、日本を戦争への道へとふたたび導こうとしている。いまこそ、私たちは、日本国憲法の理念に立ち返り、憲法によって公権力を制限し「独裁」を回避するための仕組みである「立憲主義」を回復し「国民主権」を取り戻さなければならない。そして、「平和主義」「基本的人権の尊重」の実現に向けて、さらなるとりくみが求められている。

 2月11日は、「建国記念の日」、2月23日には、「天皇誕生日」を迎え、政府あげての天皇制強化のための、一大キャンペーンがおこなわれようとしている。敗戦の1945年からちょうど77年目にあたる2022年は、水平社結成から100年という年でもある。大きな時代の節目である2022年に、各都府県連・支部で天皇制強化を許さないとりくみを創意工夫して展開していこう。

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