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「全国部落調査」復刻版裁判・東京高裁控訴審に勝利しよう

「解放新聞」(2022.03.05-3019)

 昨年9月27日の「全国部落調査」復刻版出版事件裁判の判決で、東京地裁は「「全国部落調査」の公表により結婚や就職で差別を受ける恐れがある」とのべ、復刻版の出版差し止めとインターネット上でのデータ配布禁止や二次利用の禁止、原告235人のうち219人にたいして合計488万円の損害賠償を認めた。

 しかし、原告が主張した「差別されない権利」の侵害を認めず、プライバシー権の侵害を基準に判断したため、16県が差し止めから除外された。到底納得できない。部落解放同盟中央本部と原告団は控訴し、3月24日に控訴理由書を東京高裁に提出する。この提出で控訴審が具体的に動き出す。控訴審完全勝利に向け、中央本部は3月24日に東京で集会をひらく。鳥取ループ・示現舎の悪質な差別煽動を糾弾し、控訴審で全面的に勝利するため、3・24集会を成功させよう。

 控訴審では、地裁判決の誤りを指摘し、原告の主張を補強したうえで、あらためて東京高裁に訴える。弁護団は、判決以降6人の学者から意見を聴取し、14回の検討会を開催。控訴の準備をすすめ、控訴理由書のとりまとめに入っている。あらためて原判決のおもな問題点を整理し、控訴理由書のポイントを説明したい。

 9・27判決の一番大きな問題は、裁判所が「原告らの主張する権利の内実は不明確」として「差別されない権利」を否定した点にある。この裁判はあくまでも原告らのプライバシー等の人格権にもとづく請求だと一方的に解釈したうえで、プライバシー権侵害を根拠として差し止め範囲を「現在の住所又は本籍が本件地域内にある」原告がいる都府県に限定した。そのために16の県が差し止めから除外された。損害賠償についても原告個人のそれぞれの条件にもとづいて類型化して判断した結果、損害賠償が認められない原告も出た。

 しかし、「差別されない権利」は憲法14条で法的に保障されている権利。憲法14条の意義を考えれば、被差別部落の一覧表をさらす行為は、そこに住む住民全体が部落出身者とみなされ、被害は「全国部落調査」の地域一覧に住む住民全体におよぶ。16県を除外すること自体が間違っている。また、原告一人ひとりを分類し、権利の侵害を判断することも間違っている。

 「差別されない権利」は、日本政府が締結している「人種差別撤廃条約」の規定からも明確に認められなければならない権利だ。憲法98条2項は、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」と規定している。「人種差別撤廃条約」の1条1項は人種差別の対象に「世系」をふくみ、被差別部落は該当する。条約締結国である日本は、部落差別解消のための積極的差別是正措置(第2条2項)等をとる義務を負っており、国際条約の遵守義務の立場からも、裁判所は同条約の定めに適合するよう「差別されない権利」を認めるべきだ。

 なぜ裁判官は、現住所・現本籍がある人だけにプライバシーの侵害を限定するのか。その原因は、裁判官が部落差別の実態、すなわち差別の属地性・系譜性をふまえなかったためだ。それが二つ目の問題だ。

 部落差別の属地性とは、部落に住んでいる、住んでいたなど、部落とされる〝土地〟に何らかのかかわりがある人が部落出身者と「みなされて」差別の対象になること。系譜性とは、家族や親戚縁者が住んでいる、または住んでいたなど〝ひと〟につながりがある人がやはり部落出身者とみなされて差別の対象になることをいう。現在の部落差別は、この二つの側面を持っている。実際、各地の部落差別事件、とくに結婚差別の事例を見ると、現に部落に住んでいる人だけではなく、過去に住んでいた人や外部から移り住んだ人までが部落出身者とみなされ差別されている。また、家族や親戚縁者にとどまらず、先祖までさかのぼってその人のルーツを調べ、つながりがあった場合は部落出身者とみなして差別の対象としている。昨年発覚した行政書士による戸籍等の不正取得事件が何よりもそれを証明している。ゆえに、現に住んでいるか、現に本籍を置いている人だけを救済の対象とするのは、きわめて問題があり、部落差別の実態をふまえていない。

 三つ目の問題は、カミングアウトとアウティングの違いを理解せず、部落出身であることを公表している原告のプライバシー侵害を認めなかったことだ。裁判官は、みずから部落出身であることをインターネットや新聞などで公表している人は、すでに部落出身であることが社会に知られているのだから、被告が「誰だれは部落出身者だ」とネットにさらしたとしてもプライバシーの侵害にはならないと判断したが、裁判官はいわゆるアウティング(さらし)とカミングアウト(名乗り)は根本的に違うことをまったく理解していない。控訴審でも争点になるだろう。

 四つ目の問題は、被告らの地名リスト公表が、これまでの部落解放運動の成果を台無しにするものであり、部落解放同盟の歴史的成果にたいする業務妨害になることを裁判官はまったく考慮しなかったことだ。

 部落解放運動は1922(大正11)年の全国水平社創立から今年で100年。一世紀にわたる私たちの活動は、ひとえに被差別部落民の差別からの解放のためだった。実際、これまで部落解放同盟は、構成員でなくても差別を受けた場合には、どこの地域、どこの人でも支援してきた。今回、被告らは地名リストを公表しようとしているが、それは全国の被差別部落の住民に被害をもたらす。その意味で被告らの行為は、全国の被差別部落民の差別からの解放、部落差別撤廃に向けた部落解放同盟のそもそもの業務を妨害する。

 たとえば、1975年の「部落地名総鑑」事件では、事件の教訓から公正採用選考の制度の改善や「高等学校統一応募用紙」の制定、100人以上の企業に設置を義務づけた公正採用選考人権啓発推進員制度の設置、企業による人権啓発企業連絡会の結成などにとりくんできた。今回、被告らの行為は「部落地名総鑑」事件を教訓にした上記のような制度や成果を完全に反故(ほご)にするものであり、部落解放同盟の長年のとりくみによる成果を台無しにする業務妨害そのものだ。

 弁護団は3月24日、東京高裁に控訴理由書を提出し、控訴審が具体的にスタートする。勝利のために各都府県連や支援者にいくつかのとりくみを提起したい。

 ひとつは、鳥取ループによってひき起こされた差別情報の氾濫にたいし、地域から差別情報の削除のとりくみをすすめることだ。

 いま、鳥取ループの不法行為に触発されてインターネット上には差別情報があふれている。これにたいして兵庫県丹波篠山市はグーグルやライン社を相手に差別動画の削除を求める仮処分申立をして、削除させた。長野県の佐久市・小諸市、新潟県上越市では、市長が地元の法務局に削除要請した。これらは直接裁判にかかわる活動ではないが、鳥取ループに触発された差別情報の氾濫には、自治体も乗り出さざるを得ないところにきていることを裁判官に訴える必要がある。

 二つ目は、全国各地で広がっているモニタリング活動をさらに普及させることだ。地裁判決は「(一部であっても)一覧表の公表は身元調査を容易にする違法な行為」とした。この判決をふまえて、さらに各地でモニタリング活動を広げよう。判決を待つだけではなく、自主的にとりくむことが、今後の法整備の土台になり、また、控訴審でも証拠として大きな意義を持つ。

 9・27地裁判決は、差し止めと損害賠償を認め、悪質な差別情報を流せば、差し止めのうえに損害賠償金を支払わなければならないと示した。しかし、地名一覧などの差別情報を禁止する法律がないため、中途半端な判決になった。そのため、東京高裁に控訴したが、その控訴審がいよいよはじまる。弁護団を支援するとともに、全国各地で裁判闘争を完全勝利まで闘い抜こう。

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