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石川一雄さんの無実と狭山事件の再審開始を求める世論を広げよう

「解放新聞」(2022.05.15-3027)

 4月8日、弁護団は、「刑事訴訟法」435条2号(「原判決の証拠となった証言が確定判決により虚偽であったことが証明されたとき」を再審請求の理由と定めたもの)にもとづく再審理由の追加申立書を提出した。今回の申立ては、証拠開示された取調べ録音テープ等によって、有罪判決が認定の根拠とした警察官の証言が偽証であることが明らかになったので、再審請求の理由を追加するというものだ。

 狭山事件の確定判決となっている2審・東京高裁の無期懲役判決(寺尾判決)は、「(取調官らの)当審(2審)各証言に徴しても、不当な誘導がなされたことをうかがわせる状況は見いだせない」「被告人の取調べを主として担当し、最も数多くの供述調書を作成している青木(警部)が当審において証人として、自分は、平素から供述調書というものは、被疑者の言うとおりをそのまま録取するものだと考えているし、それを実践してきたと証言している」などとして、自白は任意になされたもので、信用できるとしている。

 ところが、第3次再審請求で、裁判所の勧告で取調べを録音したテープが証拠開示され、自白直前の取調べを録音したテープでは、警察官らが、否認している石川さんにたいして、「脅迫状を書いたことは間違いない」と決めつけた発言をくり返し、あげくには「供述義務がある」などと黙秘権も無視して自白を強要している実態が明らかになった。

 また、取調べのやりとりのなかで、石川さんが被害者の死体がどうなっていたかも説明できず、犯行の筋書きを語れなかったことも明らかになった。むしろ、警察官が誘導して犯行ストーリーを語らせていることも暴かれた。有罪判決が引用している警察官らの「(石川さんは)自発的にスラスラと(犯行を)自白した」「供述調書は被疑者が言ったとおりに書いたもの」という証言が偽証であったことは明らかだ。

 有罪判決は、鞄や万年筆の発見についても、警察官らの証言を引用し、発見経過に疑問はなく、自白したとおりに見つかった有罪の根拠だとしている。しかし、これらの警察官の証言も偽証だったことが取調べ録音テープなどの開示された証拠で明らかになった。

 今回の申立てでは、自白の任意性、自白の信用性、鞄や万年筆の発見経過について、それぞれ有罪判決の根拠となった警察官の証言が開示証拠によって、偽証であったことが明らかになったとして、再審理由にあたると主張している。

 さる4月26日に東京高裁でひらかれた第50回三者協議で、大野勝則・裁判長は「刑事訴訟法」435条2号による再審請求について検察官に答弁書の提出を求め、検察官は提出するとしている。警察官が裁判で偽証したという事実は重大な問題である。ましてそれが有罪判決の根拠となっているのだ。大野裁判長は、取調べ録音テープなどの新証拠が石川さんの無実を示していることとあわせて、警察官の偽証が誤判を招いた一因であることを厳しく受けとめ、狭山事件の再審を開始すべきである。取調べ録音テープは、石川さんの自白が実際の犯行体験を語ったものではなく、むしろ石川さんが犯人ではないことを示す新証拠だ。今回の再審理由追加申立てとあわせて、狭山パンフなどを活用して学習、教宣をすすめてほしい。

 有罪判決の証拠の一つとされたタオルについて弁護団が求めた証拠開示について、検察官は3月31日付けで、タオルについて新証拠が提出されていないなどとして証拠開示の必要はないとする意見書を提出、弁護団は、4月20日付けで反論の意見書を提出した。

 狭山事件においては、被害者の死体は、タオルで目隠しされており、このタオルは東京の食品会社が関連する会社や得意先に贈答品として配ったものであった。配られた先の一つに、石川さんがかつて働いていた東鳩製菓があり、野球大会の参加者などに配られたという東鳩の工場関係者の証言を根拠として、野球チームに入っていた石川さんは本件のタオルを入手可能だったとして、有罪の根拠とされたものだ。

 弁護団が開示を求めているのは、タオルを製造、得意先に配付した月島食品、およびタオルの配付を受けた東鳩製菓(本社や各工場)での帳簿など捜査過程で作成された客観的な資料である。弁護団は反論の意見書で、新証拠のあるなしにかかわらず、タオル関連の客観的証拠の開示がおこなわれるべきと主張した。

 この弁護団の主張を受けて、4月26日の三者協議で、東京高裁の大野裁判長は、客観的な証拠はなるべく開示してほしいというこれまでの裁判所の姿勢を踏襲するとのべて、タオルについても客観的なものは出してほしいと検察官に開示を促した。

 そもそもタオルは狭山市内のパン屋もふくめて多数配られたうちの一つだ。石川さんが東鳩製菓に勤務していたのは3年半ほどで、その間に野球大会が何回おこなわれ、タオルが賞品で配られ、石川さんが入手したという客観的証拠はない。タオルの入手可能性という有罪判決の認定じたいがきわめて弱いものであることは明らかだ。それをさらに明らかにするために証拠開示が必要である。検察官は、裁判所の勧告にしたがい、すみやかにタオル関連の証拠を開示すべきだ。

 弁護団は、現在、下山第2鑑定(万年筆インク)、赤根鑑定(死体関係)について検察官が提出した意見書にたいする反論の意見書、補充書の作成をすすめている。自白についての専門家の鑑定書などの新証拠とあわせて6月中に提出する予定だ。

 一方、検察官は、弁護側の主張に反論する総括的な意見書を7月末をめどに提出するとしている。

 次回の三者協議は9月上旬におこなわれるが、それまでに弁護団は鑑定人尋問を請求する書面を提出することにしている。いよいよ重要な正念場を迎える。

 そのようななかで、きたる5月23日には石川さんが不当逮捕されて59年を迎え、5月24日には東京・日比谷野音での市民集会が開催される。

 新たな変異株の感染拡大が収束しないなかで、石川一雄さん、石川早智子さんは、感染予防と体調管理にいっそう気をつけて、元気で生きる闘いを続けており、日比谷での市民集会にも出席を予定している。

 石川さんは、東京高裁第4刑事部が、鑑定人尋問をおこない、狭山事件の再審を開始することを信じて訴え続けている。この思いを受けて、わたしたちも、ひき続き感染防止を徹底しつつ、世論を大きくするとりくみをすすめよう。5月24日の日比谷での集会に幅広い仲間とともに積極的に参加するとともに、全国各地で街頭宣伝やパネル展、真相報告集会、学習会などを実施しよう。東京高裁に再審開始を求める署名、要請ハガキにとりくもう。新証拠の学習・教宣をすすめ、59年におよぶえん罪の真相、石川さんの無実と狭山事件の再審開始を求める世論を広げよう。

 今回の協議で、裁判所はタオル関連の証拠開示を検察官に促したが、開示するかはまだわからない。スコップ関連の証拠開示については、検察官は証拠開示の必要性がないなどと不誠実な対応をくり返している。そもそも証拠開示の必要性は検察官が判断すべきものではないはずだ。狭山の闘いと結びつけて、再審請求における証拠開示の法制化、再審開始決定にたいする検察官の抗告の禁止、事実調べの保障など再審手続きの整備を盛り込んだ「再審法」(「刑事訴訟法」)の改正を求める声を大きくしていくことも重要だ。「再審法」(「刑事訴訟法」)を改正するのは国会の責務だ。えん罪当事者と弁護士、学者と市民らで「再審法改正を求める市民の会」が結成され、国会請願署名をよびかけている。

 わたしたちも誤判から無実の人をすみやかに救うための司法改革を求めて、国会議員に働きかけるとともに、「再審法」改正を求める国会請願署名に全国でとりくもう。「再審法」改正を国会に求める意見書を地方議会で採択する運動をすすめよう。

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