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NEWS & 主張

主張

 

反差別国際運動連帯活動を強化し、
「世界の水平運動」の新たなる歴史を刻もう

「解放新聞」(2022.08.25-3037)

 全国水平社100年を記念する全国大会で、第1回西光万吉文化・平和活動奨励賞が6団体に贈られた。「水平社宣言」を起草した西光は、世界平和に思いを巡らし、世界連邦を構想する「和栄政策」を主張した。インドの被差別階層にも関心を寄せていた。奨励賞受賞団体の門付け芸や和太鼓、ダリットの村での連帯交流活動などが評価された。アジアでの人形遣いには、インドのパペティア・カースト、韓国の男寺党(ナムサダン)、インドネシアの水牛皮の影絵人形ワヤン・クリを操るダランなど被差別階層がかかわる。海外での門付け芸公演、ダリット文化の太鼓と和太鼓の競演が実現できたら、文化芸術の面での「世界の水平運動」が広がる。

 反差別国際運動(IMADR)総会が6月14日に日比谷図書文化館で、コロナ感染拡大に留意しながら開催された。組坂繁之さんとニマルカ・フェルナンドさんにひき続き共同代表理事をお願いした。ニマルカさんの出身国スリランカはコロナで観光客が激減、負債返済の外貨が底をつき経済破綻し、大統領は辞任した。しばらくは政情が不安定で混乱が続く。ニマルカさんたちは、政権による弾圧が続き民主主義と平和のための活動が十分できない状態にあったが、落ち着いてきた2019年IMADR総会のスリランカ開催を一度は決定した。その後、政情が不安定になり、やむなく中止した。アジア委員会の国々のマイノリティの日常は差別や人権侵害の危機と背中合わせだ。連帯しながら反差別国際運動を継続していくことの意味がある。

 8月2日はスィンティ・ロマの「ホロコースト・メモリアルデー」だ。IMADR理事のドイツ・スィンティ・ロマ中央委員会は毎年、ホロコーストのサバイバー(生存者)を招き、ナチスの迫害とホロコーストの悲劇を伝え、記憶していく。ホロコースト否定の歴史修正主義が台頭するなかではとくに、犠牲者を追悼し、「人道に対する罪」を記憶することは重要である。

 総会の記念講演で、指宿昭一・弁護士は「入管問題と外国人労働者の人権」をとりあげた。1981年に「難民条約」を批准しているにもかかわらず、日本は難民認定率が異常に低く(1%未満)、内外人平等の原則は守られず、公的な収容施設で自殺・虐待死・餓死など不審死が多発していると指摘し、昨年、名古屋入管で餓死したスリランカ人女性の収容施設内での非人道的扱いを詳細にとりあげた。尿検査で「ケトン体3+」は飢餓状態であるが、入管施設の公務員は医療処置を放棄し、餓死させた。収容状態を記録した映像の提出を出入国管理庁は拒否している。

 入管施設への収容は強制送還のための一時的収容なのに、無期限収容にしたり、仮放免と強制収容をくり返して精神的に追い詰める。「恣意的拘禁だ」として、国連から人権上の懸念が表明されている(拷問禁止委員会・2013年、自由権規約委員会・14年、人種差別撤廃委員会・18年)。「難民条約」では「ノン・ルフールマン原則」によって難民申請中は強制送還できないため、劣悪な収容環境下で長期収容することで絶望させ「自発的に帰国」するように仕向ける。事件を受けて、上川法務大臣は「送還することに過度にとらわれるあまり、人を扱っているという意識がおろそかになっていた」と―この国の人権擁護を担当する法務省の言葉である。法務省の入国者収容等視察委員会や人権擁護委員制度がまったく機能していない。国家機関から独立した人権侵害救済機関が必要である。

 厳しい批判にさらされた法務省は、長期収容を減らす名目で「入管法」改悪法案を国会に提出したが、懲役刑導入など時代に逆行する内容で、廃案となった。

 「難民条約」批准を受けて、「出入国管理令」を「出入国管理及び難民認定法」に改正(1982年)後も政府は、助けを求めて命からがら逃げてきた難民に門を閉ざしながら、他方で低賃金外国人労働者の大量受け入れを促進している。資格外活動を認める留学生・研修生と「特定活動」に従事する人、「技能実習生」への搾取が公然とおこなわれ、「現代的形態の奴隷制」と批判されている。1991年、法務・外務・厚生労働・経済産業・国土交通の5省共管で国際研修協力機構(JITCO)を設立し、受け入れを促進してきた。国際貢献などの名目を掲げているが、実質、低賃金労働力確保のためであり、制度そのものが差別・人権侵害を生んでいる。技能実習生受け入れ団体への支援・監督業務は不十分だ。送り出し団体・受け入れ団体に法外な保証金を預けたり、多額の借金で拘束されたり、暴力を伴う強制労働もある。

 2022年、米国務省人身売買年次報告書に「技能実習制度の下で人身売買として外国人労働者の搾取」が明記されている。「日本政府は人身取引撲滅のための最低基準を満たしていない」と3年連続「第2階層」の評価(先進7か国ではイタリアと日本だけ)だ。

 すでに日本は300万人近くの外国人が在留する移民社会であり、外国人労働者に依存する社会である。技能実習制度を即時廃止したうえで、創設された特定技能制度もふくめて労働法を適用し、正規雇用・定住を視野に入れた内外人平等を実現する移民政策を整えることである。「外国人との共生社会」の実現である。

 10月に自由権規約委員会の日本審査が予定されている。条約委員会から政府に事前質問書が出され、「人権救済制度の在り方については検討している」などと回答している。部落問題でもインターネット上での部落差別に関する報告を求められ、「2016年に施行された「部落差別の解消の推進に関する法律」を踏まえ、同和問題に関する差別の解消を推進すべく、相談体制の充実、教育及び啓発を行っている」と回答しただけである。インターネット上の部落差別に関しては有効な措置がとられていないので、部落解放同盟から以下のようなカウンターレポートを提出した。

 鳥取ループ・示現舎がインターネット上に掲載を続けている「全国部落調査」復刻版は、電子版「部落地名総鑑」であるとして、部落解放同盟などは削除を要求し、損害賠償請求を裁判所に提出した。2021年9月東京地裁は「プライバシー侵害」にあたるとして損害賠償をわずかに認め、公表の禁止(差し止め)も認めた。しかし、部落出身者の「差別されない権利」(憲法第14条)は認めなかった。部落出身者がインターネット上に晒される部落差別を不法行為と認めさせるには差別禁止法の制定が急がれる。

 行政書士がインターネット上にホームページを開設して戸籍情報取得を商売とし、3500件7000万円以上を売り上げた。昨年「戸籍法」違反で逮捕され、罰金刑に処せられた。しかし、弁護士や行政書士らは依然として職務上請求書で自由に交付を受けられるので、戸籍情報入手を依頼する顧客は絶えない。

 「デジタル手続法」制定に関連して、法務省は戸籍情報とマイナンバー制度をつなぐ「戸籍法」改正をおこなった。特定個人情報と位置づけ、厳重なセキュリティをかけたが、地方自治体が保有する戸籍情報は電子情報化された個人情報であるにもかかわらず、「個人情報保護法」の管理下にはおかれていない。少なくとも、「電子情報化された個人情報保護に関するガイドライン(国連10原則)」の「非差別原則」をふまえて、「個人情報保護法」のセンシティブ情報である要配慮個人情報として取り扱い、本人の同意なき取得・利用・第三者提供は禁止し、罰則規定を適用すべきである。

 2018年の人種差別撤廃委員会の勧告を政府が実行しているか確認するために、6月にNGOは意見交換会を実施した。国内人権機関設置、包括的差別禁止法制定など重要な勧告はほとんど実行していない。次回の政府報告書審査に向けて、部落解放同盟は「条約第1条のDescent(世系)に部落民が含まれる」などのNGO報告書を準備していく。

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