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狭山事件の事実調べの実施を求め新たな署名運動を

「解放新聞」(2022.09.25-3040)

 8月29日、弁護団は、東京高裁に新証拠9点と再審請求補充書とあわせて事実取調請求書を提出した。

 提出された新証拠は、スコップについての元科捜研技官による補充意見書2通(土砂および油脂について)、殺害方法、死体処理についての法医学者の鑑定書2通、下山第2鑑定にかかわる下山鑑定人の意見書など、検察官が提出した意見書の誤りを明らかにした専門家の意見書だ。また、取調べ録音テープの反訳をコンピュータをもちいたテキストマイニングによって分析した立命館大学教授の鑑定書も提出された。言語情報科学の専門家である鑑定人が、科学的、客観的手法であり、社会のさまざまな分野で活用されているテキストマイニングによって取り調べのやりとりのデータを分析し、殺害方法についての自白が真実ではないことを明らかにした新証拠だ。第3次再審請求で提出された新証拠は255点になった。

 そして、弁護団は、これらの新証拠、再審請求理由補充書とあわせて、事実取調請求書を東京高裁に提出した。事実取調請求書は、これまで提出された新証拠を作成した鑑定人の証人尋問と万年筆インクについて裁判所による鑑定の実施を求めるものである。

 具体的には、脅迫状の筆跡・識字能力、指紋の不存在、足跡、スコップ、血液型、目撃証言、犯人の音声、万年筆、自白、殺害方法、死体処理について、鑑定書、意見書を作成した科学者、専門家11人の証人尋問を求めている。

 これらの鑑定人は、コンピュータによる画像解析の専門的知見をもつ科学者、人物識別供述についての専門的知見をもつ心理学者、あるいは死因や血液型について専門的知見をもつ法医学者、あるいは元科学捜査研究所(科捜研)技官など、いずれも、その分野での専門家である。裁判所は、その専門的知見にもとづく鑑定内容、結果と意味について、尋問をとおして直接、鑑定人から聞いて、十分に精査したうえで新証拠の評価をすべきだ。

 また、これらの弁護団提出の鑑定にたいして、検察官は反証を提出し、弁護団が再反論の新証拠を提出するなど、鑑定の評価が「争点」になっている。

 そして、新証拠の各鑑定事項は、狭山事件の確定判決(東京高裁の無期懲役判決 1974年10月31日)があげた有罪証拠に即したものである。公平・公正に鑑定を評価し、新証拠によって確定判決に合理的疑いが生じているかどうか、再審を開始すべきかどうかを総合的に判断するために鑑定人尋問は不可欠である。

 弁護団は事実取調請求書において、こうした点を指摘し、鑑定人尋問の必要性を主張している。

 また、弁護団は、下山第2鑑定で鑑定資料となった被害者が事件当日に書いたペン習字浄書の文字インクと被害者のインク瓶(残存インク)からクロム元素が検出され、発見万年筆で書いた数字のインクからはクロム元素が検出されないことについて、裁判所による鑑定を請求した。具体的には、これらのインク資料について、蛍光X線分析の専門的知見をもつ客観的な第三者による鑑定の実施を請求するものである。

 下山第2鑑定は、石川さん宅から自白通り発見されたとして、有罪証拠とされた万年筆のインクが、被害者が使っていたインクと異なることを蛍光X線分析によって明らかにしたものだ。証拠の万年筆が被害者のものといえないことを指摘しており、きわめて重大な争点だ。弁護団は、万年筆インク鑑定を実施することで、下山第2鑑定にたいする検察官の批判が意味のないものであり、下山第2鑑定の結果が正当であることが明らかになると主張している。

 東京高裁第4刑事部(大野勝則・裁判長)は、弁護団の請求を受けて、11人の鑑定人の証人尋問とインクについての鑑定を実施すべきである。

 弁護団は、これらの事実調べをおこなったうえで、新証拠と他の全証拠を総合的に評価し、狭山事件の再審を開始するよう求めていくことになる。

 まだ鑑定人尋問の実施が決まったわけではない。東京高裁第4刑事部が、弁護団が求める鑑定人尋問および万年筆インクについての鑑定を実施するよう求める世論を大きくしていかなければならない。全国各地で、世論を盛り上げるとりくみをすすめよう。

 9月1日には、東京高裁で裁判所、弁護団、検察官による三者協議がおこなわれた。検察官は、弁護団が提出した事実取調請求書について、今後、検討したうえで意見書を提出するとした。

 また、検察官は7月29日付けで総括的な意見書を提出しており、弁護団はこれについて反論を検討している。次回の三者協議は11月下旬におこなわれる。今後検察官の意見書提出を受けて裁判所が事実調べをおこなうかどうか、年内は大きな正念場だ。

 同日、三者協議後に、裁判所内の司法記者クラブで、弁護団とともに記者会見をおこなった再審請求人である石川一雄さんは「弁護団は科学者や専門家の鑑定を提出しているので、ぜひ鑑定人尋問と裁判所によるインクの鑑定をおこなってほしい。事実調べをおこなえば、わたしの無実はわかってもらえるはずだ」と訴えた。石川さんの訴えと弁護団のとりくみに応えて、なんとしても事実調べを実現しよう。

 当面は、弁護団が求めた鑑定人尋問および万年筆インクにかかわる鑑定の実現が第1の課題だ。狭山事件においては、1977年の第1次再審請求いらい45年にもなるが、一度も鑑定人尋問などの事実調べがおこなわれていない。これでは、とうてい公正・公平な裁判とはいえない。

 そこで、狭山事件の再審を求める市民の会(鎌田慧・事務局長)は、東京高裁第4刑事部(大野勝則・裁判長)に、事実調べ(鑑定人尋問・鑑定の実施)を求める新たな署名運動を開始する。

 当面、この事実調べを東京高裁に求める署名に集中して全国各地でとりくんでほしい。

 部落解放同盟中央本部では、3役、中執で全国一斉に署名運動の強化をよびかける要請行動もおこなう。各地で、部落解放同盟はもとより、部落解放共闘、同宗連、住民の会など幅広い団体で署名にとりくみ、事実調べを求める市民の声を東京高裁にとどけよう。
 事実調べを訴える石川一雄さん、早智子さんのビデオメッセージは中央本部のホームページで配信されている。また、鑑定人尋問や鑑定請求の内容について狭山パンフでも特集する。これらも活用して、第3次再審請求で弁護団が提出し、鑑定人尋問を求めている新証拠について、学習と教宣を強化し、署名運動のとりくみを全国各地ですすめよう。

 きたる10月31日には狭山事件の有罪判決である東京高裁の寺尾判決が出されて48年を迎える。10月28日には東京・日比谷野音での市民集会が開催される。

 この集会で、事実調べ(鑑定人尋問・鑑定)の実施を求める署名を第1次集約し、東京高裁に提出する。多くの署名を提出できるよう、全国でとりくみをすすめよう。

 今回の三者協議でも検察官は、裁判所が開示を促した証拠開示についてまだ検討中として開示に応じていない。再審請求における証拠開示の法制化、再審開始決定にたいする検察官の抗告の禁止、事実調べの保障などを盛り込んだ「再審法」改正を求める声を大きくしていくことも重要だ。

 鑑定人尋問請求で闘いが終わるわけではない。当面の課題は鑑定人尋問の実現だが、狭山事件の再審を実現し、石川さんの無罪判決をかちとり、「みえない手錠」をはずすまで、闘いは続くことも忘れてはならない。

 弁護団は、今後、鑑定人尋問実施に向けた活動をすすめ、再審開始、石川一雄さんの再審無罪を実現するべく全力でとりくむ。わたしたちは、石川さんと弁護団の活動を最後まで支え、後押しする世論を大きくしていかなければならない。正念場を全力で闘おう。

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