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解放保育・人権保育運動のさらなる深化と創造をすすめよう

「解放新聞」(2022.12.05-3047)

 昨年、「経済財政運営と改革の基本方針2021」をふまえ、7月に「こども政策の推進に係る作業部会」、9月から「こども政策の推進に係る有識者会議」が開催された。「有識者会議」での議論や「少子化社会対策大綱」をふまえ、11月には「こどもに関する政策パッケージ」が取りまとめられた。また、12月には、有識者会議の報告書をふまえた「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」が閣議決定され、「常にこどもの最善の利益を第一に考え、こどもに関する取組・政策を我が国社会の真ん中に据えて、こどもの視点で、こどもを取り巻くあらゆる環境を視野に入れ、こどもの権利を保障し、こどもを誰一人取り残さず、健やかな成長を社会全体で後押しする」ことを基本方針とし、そうした社会を目指すための新たな司令塔として、こども家庭庁を創設する、とした。

 世界中のすべての子どもの基本的人権を国際的に保障するために定められた「子どもの権利条約」が1989年に国連総会で採択され、94年に日本も批准し、これまで複数回にわたり国連から子どもの権利についての法整備をおこなうよう勧告を受けてきたが、日本政府は、批准時から現行法で子どもの権利は守られているとの立場をとり、国内法の整備をおこなわなかった。しかし、児童虐待が社会問題となり、2000年に「児童虐待の防止等に関する法律」(「児童虐待防止法」)が制定され、その後、「児童虐待防止法」、「児童福祉法」の改正が何度もおこなわれたが、児童虐待やいじめ、自殺者の増加、貧困、少子化の進行など子どもを取り巻く状況は深刻で、さらにコロナ禍において危機的状況にあることをふまえ、本年6月、「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」にもとづく「こども家庭庁設置法」と「こども基本法」が成立し、来年4月に施行されることとなった。「こども政策」をめぐり、基本的な方針などを定める「こども大綱」が、来年秋頃に策定される予定となっており、動向を把握していかなければならない。

 「こども基本法」は、「子どもの権利条約」の一般原則に相当する規定が基本理念におかれた法律となっており、国として子どもの権利を保障することを明記した意義は大きいが、基本理念に「こどもの養育は家庭を基本」としたこと、省庁名が「こども庁」から「こども家庭庁」となったことは、子どもを独立した一人の人間と捉えておらず、子どもの人権の意識が欠けているといっても過言ではない。子どもの育ちにおいて家庭が重要な役割を担っていることには違いないが、「子どもの権利条約」にもあるように、子どもを権利行使の主体とすること、また、常に子どもの最善の利益を第一に考える「こどもまんなか社会」の実現を掲げるのであれば、「こども庁」とするべきだ。「こども家庭庁」には伝統的家族観や保護者の自己責任論が強く反映されている。虐待をはじめさまざまな事情で「家庭」に嫌悪感を抱くといった子どもたちや当事者、専門家の声を無視するべきではない。

 さらに、「こども政策」の予算について財源確保にも課題がある。8月に公表されたこども家庭庁の来年度予算案の概算要求額は4兆7510億円。4月の国会審議で、岸田首相は「こども政策の予算倍増をめざす」と予算拡充を明言したが、増額を続ける防衛費の安定財源確保の議論がすすむ一方、「こども政策」の財源確保の議論は先送りされた。子ども関連の予算はこれまであまりに貧弱であり、課題は山積している。子どもの権利実現のための施策を具体的、効果的に実施するためには財政確保が不可欠だ。

 来年度の新事業の一つに、保育所(園)や幼稚園に通っていない「未就園児」や「無園児」への支援として、育児に困難を抱え、孤立しがちな家庭への家庭訪問や保護者の困りごと把握など、子どもへの虐待リスクを減らす対策を講じるため、こども家庭庁で体制を整えるとしている。厚生労働省によると、保育所(園)や幼稚園、認定こども園などに通わず、家庭内で養育している0〜5歳の「未就園児」「無園児」は、全国で182万人(2019年度)いると推計される。認可外施設や企業主導型保育事業を利用している子どももふくむため、正確な人数はわかっていないが、家庭での養育を選択する保護者などがいる一方で、低所得や多子、外国籍の世帯の子どもが「未就園児」「無園児」になりやすいとする報告もある。また、厚生労働省の検討会がまとめた報告書によると、核家族化や地域のつながりの希薄化により、保育所などを利用していない家庭が孤立し、「孤育て」を強いられていると指摘し、孤立が虐待につながる懸念もあるとした。

 子育てを取り巻く環境が時代とともに変化しているにもかかわらず、国の施策は後手にまわっている。高度経済成長期には、保育所は家庭での育児が難しい場合の福祉施設として位置づけられ、市区町村は保護者の就労や病気など「保育の必要性」を点数化し、入所者の優先順位を決定していた。いまも続くこうした仕組みは、さまざまな事情を抱えた人にとっては利用しにくく、「就労状況」などの条件を満たさず、希望しても通所が認められないケースもある。

 わたしたちのとりくむ人権保育は、子どもたちの教育保障を0歳から就学前まで、24時間保育の視点に立って保護者や地域とともに、保護者集団の組織化と就労保障、そして、保育を必要とする子どもたちの入所を保障する皆保育の原則を位置づけてきた。これまで積み上げてきた皆保育の原則を、いまこそ日本の保育制度にしっかり位置づけていかなければならない。また、保護者集団の組織化が困難な状況も散見され、これまでの保護者組織のあり方にとらわれず、地域の家族形態の現状、保護者の就労状況などに応じた組織化にとりくむとともに、保護者との連携を強化し、地域全体・社会全体で子どもを育てる環境づくりをすすめていかなければならない。

 来年2月4、5日の2日間、第43回全国人権保育研究集会を広島県福山市で開催する。全体会では、地元報告として「ヒロシマの調べ〜被爆ピアノ平和コンサート」をおこなう。唯一の戦争被爆国であり、被爆者の願いでもある、昨年1月に発効した「核兵器禁止条約」に、核保有国が参加していない禁止条約は現実的な核軍縮にはつながらないとして、参加していない日本政府の姿勢を許してはならない。ロシアによるウクライナ侵略が続き、人権と平和が脅かされるとともに、核の脅威が現実になっているなか、1945年8月6日に原子爆弾が投下された広島で奇跡的に焼け残った被爆ピアノの奏でる調べをとおして、いま一度、戦争は最大の人権侵害であることを確認し、反戦・平和のとりくみをすすめよう。

 また、大寺和男・全国人権保育連絡会副会長が「人権保育の創造に向けて『8つの視点』について」と題した記念講演をおこなう。1974年に「4つの指標」、78年に「6つの原則」が提起されて以降、これらの指標と原則をふまえた解放保育・同和保育の創造と実践にとりくんできた。この40年以上の間に、国の保育制度の変更、乳幼児教育に関する新たな提言や子どもを取り巻く環境の多様化などもあり、「4つの指標と6つの原則」を継承しつつ、人権保育のさらなる実践の推進と深化をはかるための「8つの視点」を提起する。2日目は、7つの会場にわかれ、各テーマに沿った各地の実践報告をおこなう。

 「こども政策」、保育政策の転換期のいま、子どもの最善の利益を考え、すべての子どもの0歳からの全面発達が社会的に保障されるとりくみをすすめてきた解放保育・人権保育運動の果たす役割はますます重要になっている。すべての子どもの生きる権利とその成長を保障する解放保育・人権保育運動の原点をふまえ、全国各地の実践に学び、議論と交流を深め、解放保育・人権保育運動のさらなる深化と創造をすすめよう。

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