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「戦争をする国」づくりを許さず、全国各地から連帯と協働の闘いを強めよう

「解放新聞」(2023.02.05-3053)

 昨年12月16日、岸田政権は、「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」(以下「安保3文書」とする)の改定を閣議決定した。

 戦後の安全保障政策を大きく転換させ、国会での議論や国民への十分な説明責任を果たすことなく、日本の安全保障・防衛政策の根幹を、内閣の裁量で一方的に決定したことに、断固抗議する。

 改悪された「安保3文書」では、ミサイルなどの攻撃型兵器を保有し、防衛費をGDP比2%に倍増するなどとした。防衛費がGDP比2%以上となれば、日本は、米国、中国、インドに次ぐ世界第4位(現在9位)の軍事大国になる。

 とくに「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有は、「専守防衛」の原則を破り、防衛費を増大させ、戦争への道を突きすすむものである。

 今回の「国家安全保障戦略」の改悪で「我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境のただ中にある」と危機感をあおり、そのうえで、中国は「これまでにない最大の戦略的な挑戦」、朝鮮民主主義人民共和国は「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」、ロシアは「安全保障上の強い懸念」と位置づけた。このままでは、東アジアの軍事的緊張感を高めるだけで、「専守防衛は変わらない」「先制攻撃は許されない」と主張しても相手国が信じるわけがない。いまこそ、平和主義の理想を掲げる日本国憲法第9条で謳われた戦争放棄、戦力不保持、交戦権の否認を堅持すべきだ。

 岸田政権が、こうした日本の針路、政策の歴史的大転換にもかかわらず、国会で議論せず、国民に信を問わず、決定したことは説明責任を放棄しているといわざるを得ない。岸田首相は、昨年「安保3文書」の改訂を表明、その後、防衛力の強化は内容、予算、財源をセットで議論、敵基地攻撃能力の保有は「あらゆる選択肢を排除せず検討する」とくり返しのべ、昨年実施された参議院議員選挙や国会で、具体的な説明を一切おこなってこなかった。

 岸田首相みずからも「戦後の安全保障政策の大転換」とのべたにもかかわらず、選挙で国民の信を問うことも、国会でのまともな審議すらなしに強行することは、民主主義を根底から破壊する暴挙であり、とうてい許されるべき行為ではない。

 財源問題もしかりであり、防衛費をGDP比2%に倍増し、今後は5年間で総額43兆円を確保するほどに防衛費を増額、そのために大幅な増税をおこなおうとしている。岸田首相は、会見で「丁寧」「謙虚」という言葉を並べ立てたが、自民党の税制調査会で1兆円増税の方針に反発が渦巻き、国債を防衛費に充てないという戦後日本の不文律を破り、財源確保にもっとも重要な増税時期の決定は、先送りされた。

 防衛費を増税で賄うという重要な方針を場当たり的な運営で決定したことや、来年4月に新たに設置される子ども家庭庁の発足とあわせ、子ども支援や相談支援等の予算について「子ども予算倍増」を掲げながらもその確保はメドがたっておらず、市民生活を置き去りにしているといわざるを得ない。時の首相が防衛費の具体的な水準を明言したのは初めてだ。理由として「東アジアの険しい安保環境をふまえ先送りすべきでないと判断した」と強弁している。

 具体的には、2022年度当初予算5兆4005億円(GDP比0・96%)から、新たに算入する額として海上保安庁予算、防衛に資する空港・港湾整備や研究開発などの予算を加え、GDP比2%11兆円とした。11兆円は、2022年度予算で、どのくらいの規模なのかというと、少子化対策費が4・4兆円、生活保護給付などに充てる生活扶助費等福祉費が4・8兆円である。それらの年間総額に匹敵するほどの規模を増額しないと対GDP比2%は達成しない。

 現在の日本は、貧困と格差の問題、コロナ禍での失業や物価高騰などにより、市民生活は重大な危機に直面している。市民の困窮状況を顧みず、莫大な血税を防衛費に投入し、国の安全保障の責任を市民になすりつけ、所得税の増税、東日本大震災の復興特別所得税にまで手を出そうとしている。これによって市民生活がますます圧迫されるのは火を見るより明らかである。東アジアに軍事的緊張を高める「安保3文書」改定を取り止め、増税方針の撤回を強く要求する。

 岸田首相が就任時に、看板政策として掲げた「新自由主義を克服した新しい資本主義」であったが、金融所得課税の「1億円の壁」問題は、着手すらできていない。まさに、看板倒れの理念先行で、実効性がない。総裁選で訴えた「民主主義への危機感」もうかがえない。森友学園問題では、元財務省職員の遺族が起こした訴訟を「認諾」で一方的に終わらせ、再調査も否定。日本学術会議の新会員任命拒否問題でも判断撤回に応じていない。また、持論の核廃絶では、「核兵器禁止条約」の批准や締約国会議へのオブザーバー参加すら拒んでいる。エネルギー政策では、原発の積極的な再稼働のみならず、新設にまでふみ込み、さらには、原発運転期間のいわゆる「40年ルール」「60年ルール」の撤廃に突きすすもうとしている。被爆地・広島選出議員とは、とても思えない。そして、防衛費問題しかり原発政策問題でも、これまでの政策を根本的転換することを、国会や国民への審議や説明をせずにおこなった。立憲主義・民主主義を破壊する行為を絶対許してはならない。

 日本は、アジア・太平洋戦争において、朝鮮や中国をはじめとしたアジア・太平洋の人びとに被害を与え、戦争全体の死者数は約2000万人を超える被害を出した。第2次世界大戦の反省をふまえ、日本は、憲法9条にある「戦争放棄」と「戦力の不保持」と交戦権の否認を世界に誓った。「国家安全保障戦略」で「我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境のただ中にある」という緊張状況であるからこそ、日本国憲法の前文と第9条にある国際的紛争を話し合いによる解決や外交的努力によって解決していかなければならない。その役割を日本が先頭に立って果たしていくべきである。

 いま、日本は、「戦争する国にしていくのか」「平和主義を貫く国にしていくのか」という戦後最大の歴史的転換点に立っている。

 いまこそ、「平和主義」(憲法9条)、「基本的人権の尊重」(憲法11条)、「個人の尊厳」(憲法13条)、「生存権」(憲法25条)が守られ、平和と人権、民主主義と共生など、日本国憲法の理念に立ち返るべきときである。

 第2次世界大戦の教訓をふまえ、私たちには、集団的自衛権に道をひらいた2014年7月の閣議決定をはじめ、今回改定された「安保3文書」を撤回させ、平和といのちと人権が守られる日本社会を建設していく責任がある。そして、戦争する国づくりをすすめ、新自由主義路線にもとづき貧困と格差を拡大する自公政権と対峙(たいじ)し、立憲主義と平和憲法を守り、人権・平和・民主主義の確立をめざし、すべての市民と連帯して闘い抜いていこう。

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