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狭山の署名運動を継続・強化し、事実調べを実現しよう

「解放新聞」(2023.02.25-3056)

 昨年12月23日、弁護団は検察官意見書にたいする反論の新証拠と補充書を提出した。第3次再審請求で提出された新証拠は257点になった。

 狭山事件の有罪判決(東京高裁、1974年。寺尾正二・裁判長による無期懲役判決。以下、寺尾判決)は、警察医の鑑定を根拠として、犯人の血液型がB型で石川さんと一致することを有罪証拠の一つとした。

 弁護団は、第3次再審で、法医学者であるE鑑定人の意見書を提出し、この警察医の血液型鑑定の問題点を指摘し、犯人の血液型はB型と断定できず、寺尾判決の認定に合理的疑いが生じていると主張し、E鑑定人の証人尋問を請求している。

 検察官は、E鑑定にたいして法医学者の意見書など反証・反論の意見書を昨年7月に提出してきた。今回、弁護団は、この検察官意見書の誤りを明らかにするE鑑定人の意見書と、新たに警察の科学捜査で血液型やDNA型などの鑑定に従事してきた元科学捜査研究所(科捜研)技官による意見書を提出した。

 一方、検察官は、12月9日付けで、弁護団が提出したJ鑑定にたいする反論の意見書を提出した。J鑑定は、コンピュータを用いたテキストマイニングという手法によって、取調べ録音テープの反訳を分析し、殺害方法の自白は真実の体験をのべたものではないこと、自白の変遷は取り調べた警察官の誘導を示していることを指摘したものだ。弁護団は、昨年8月29日にJ鑑定を提出、事実調べ請求でJ鑑定人の証人尋問を求めた。弁護団は、このとき、J鑑定のほかに、F鑑定人、I鑑定人、K鑑定人の意見書も提出しているが、検察官はこれらの新証拠についても反論の意見書を提出するとしている。裁判所の鑑定人尋問は不可欠だ。

 弁護団は、今年1月30日、スコップ関連の証拠開示について意見書を提出した。

 弁護団は、スコップについて、有罪判決の根拠となった埼玉県警鑑識課の星野技官の鑑定について、元科捜研技官のF鑑定人による意見書を提出し、星野鑑定の問題点を指摘し、F鑑定人の証人尋問を請求するとともに、関連する証拠開示を求めてきた。これまでの協議のなかで、検察官は、2011年に、星野元鑑識課員を検察庁によんで聴取したことを明らかにしており、弁護団は、検察官による星野鑑定人の聴取に関する調書や報告書等を開示するよう求めた。裁判所も協議の場で開示できるものがないか検討してほしいとのべていたが、検察官は、弁護団が求めた資料があるかどうかも答えないなど不誠実な対応に終始した。弁護団は、今回提出した意見書で、あらためて裁判所による開示勧告の発令を求めた。

 また、弁護団は同日、タオル関係の証拠開示についての意見書も提出した。弁護団は、寺尾判決で有罪の根拠の一つとされたタオルに関する証拠開示を求めてきた。寺尾判決は、被害者の遺体の目隠しに使われたタオルを石川さんが入手可能だったとして、有罪の根拠とした。このタオルは東京の食品会社が製作し得意先に贈答品として配ったものだが、その配付先の一つに石川さんが勤めていた東鳩製菓があり、工場の野球大会の賞品として出され、野球チームの一員だった石川さんは入手可能だったという認定だ。しかし、石川さんが東鳩製菓に勤めていたのは、1958年3月から1961年9月までの約3年半であり、その間におこなわれた野球大会でこのタオルが賞品で配られ、石川さんが野球大会に参加し、タオルを入手したなどという確たる根拠は何もない。寺尾判決の認定は、そもそもきわめて弱いものだ。

 タオルは遺体を目隠ししていたものであり、警察が事件直後から、同種のタオルの配付先などについて、捜査をすすめたことは間違いない。弁護団は、食品会社が、タオルをどこに、どれだけ配付したのかについての記録や資料、東鳩製菓の贈答品の保管や各工場への配付についての帳簿等の記録などの証拠開示を求めていた。これについても、三者協議で裁判所は開示を促したが、検察官は不見当(見当たらない)とした。

 今回、弁護団は、事件当時、タオルを製作・配付した食品会社やタオルの配付を受けたとされる東鳩製菓(本社や工場)に警察官らが行って、帳簿や贈答品控え簿などを直接確認して調査していることを示す捜査報告書等を添付して、弁護団が開示を求める記録類が存在するはずであると指摘、検察官の「不見当」回答は信用できないとして、あらためて裁判所による開示勧告の発令を求めた。

 今年1月31日、東京高裁で53回目の三者協議がおこなわれ、東京高裁第4刑事部の大野勝則・裁判長と担当裁判官、東京高等検察庁の担当検察官、弁護団からは中北龍太郎・事務局長をはじめ11人の弁護士が出席した。

 検察官は、弁護団の事実調べ請求にたいする意見書、および昨年8月に提出された新証拠にたいする反論を2月末までに提出し、昨年12月に提出された血液型に関するE鑑定人の意見書にたいする反論を3月末までに提出するとしている。

 これにたいして弁護団は、検察官の事実調べについての意見書をふまえて、事実調べの必要性について意見書を提出する。この意見書で、昨年7月に検察官が提出した意見書にたいする反論も明らかにしていくことにしている。次回の三者協議は4月中旬。

 昨年9月から始められた事実調べを求める緊急署名は、10月末で10万筆を超える署名が集まり、さらに、年明けの第2次集約では20万筆を超える署名が全国から寄せられた。これまで合計で30万筆を超える署名が集まっており、事実調べを求める世論の高まりを示している。石川一雄さん、早智子さんも署名の広がりに力づけられ、感謝とともに決意を新たにしている。

 今後、検察官の意見書提出、それにたいする弁護団の意見書の提出を受けて、事実調べについて協議がおこなわれ、裁判所が事実調べをおこなうかどうか判断することになる。さらに、事実調べを求める署名運動を継続・強化してほしい。東京高裁が、11人の鑑定人尋問とインク資料の鑑定を実施するよう市民の声を裁判所に届けよう。

 検察官は弁護団が求める証拠開示について、不誠実な対応をくり返している。再審請求における検察官の証拠開示を義務化し、再審開始決定にたいする検察官の抗告を禁止するなどの「再審法」改正を実現することも喫緊の重要課題だ。「再審法」改正を国会に求める署名にとりくもう。

 今年5月には、石川さんがえん罪におとしいれられ、無実を叫び続けて60年を迎える。不当逮捕から60年を迎える5月23日には、東京・日比谷野音で市民集会が予定されている。

 各地で、狭山パネルなどを活用し、えん罪・狭山事件60年をアピールし、東京高裁に事実調べ、再審開始を求める世論を拡大するとりくみをすすめよう。

 袴田事件の再審可否の決定が、きたる3月13日に東京高裁第2刑事部(大善文男・裁判長)で出される。袴田事件の第2次再審請求は、2014年に静岡地裁で再審開始決定が出されたにもかかわらず、検察官が即時抗告をおこない、東京高裁が再審開始決定を取り消したためにいまも再審の扉が開いていない。最高裁が審理を東京高裁に差し戻し、昨年、弁護団が提出した新証拠の鑑定人尋問がおこなわれ、年末に検察、弁護団双方から最終意見書が提出されて結審した。袴田事件における証拠ねつ造や虚偽自白の強要など、えん罪の構造は狭山事件と同じだ。

 東京高裁第2刑事部は、袴田事件の再審を開始すべきだ。また、再審開始決定にたいして検察官が特別抗告をするなど断じて許されない。袴田事件の決定に注目するとともに、「東京高裁は再審開始を! 検察官は特別抗告するな!」という声を大きくしよう。

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