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全同教結成70周年の第74回全人教大会で人権教育の新たな地平を

「解放新聞」(2023.11.15-3082)

 本格的な戦後復興がすすめられていた最中(さなか)の1953年5月、現在の公益社団法人全国人権教育研究協議会(全人教)の前身である全国同和教育研究協議会(全同教)が結成された。

 当時、差別と貧困の結果、全国各地の被差別部落の子どもたちが「長欠・不就学」の状態に置かれていたが、その責任は保護者や家庭など個人の責任であるとして、放置されていた。こうした差別の現実を改善するために、各府県において同和教育のさまざまなとりくみがすすめられていたが、その内実は、戦前の融和教育であったり、観念的なものであったりと、試行錯誤がくり返されていた時期でもあった。

 そうしたなかで、近畿地方を中心に、もはや同和教育のあり方を論じる時期は過ぎ去っており、各地の同和教育の実践を集めて総点検することの必要性が提起された。

 こうした声を受けて、1953年5月6日、大阪市立労働会館に11府県市から委員が結集し、全同教が結成された。そこで示された「全国同和教育研究協議会 結成趣意書」では、「人間が人間を差別している。基本的人権が不当に蹂躙されている」という認識のもと、「民主教育とは個人の自由、平等、人格価値の尊厳を基調とする教育である。若し個人の自由が奪われ、人格が無視され、甚だしく傷つけられるような事態が存在するならば、民主教育は敢然としてこの事態と取組み、これと闘う教育でなければならない。即ち、民主教育は当然同和教育に高い位置を与える教育であるべきである」と、部落差別の現実を直視し、部落差別と闘う同和教育を基軸とした民主教育の創造と実践が高らかに謳(うた)われている。

 その全同教結成70周年にあたる今年の第74回全国・人権同和教育研究大会は、結成に参画した11府県市人教の共同により、兵庫、大阪、京都の3府県をまたいでの開催となる。

 幾多の困難と試練を乗り越えて全同教を結成した先人たちの努力に敬意と感謝の意を表し、結成以来70年にわたる同和教育・人権教育のとりくみによって積み重ねてきた成果や教訓を確かめ合う機会とするとともに、今後の人権教育の進展に新たな展望を切り拓くことをめざした大会として位置づけられている。

 これまでの全国各地で積み重ねられてきた実践を問い直し、先達がめざしてきた「差別の現実から深く学ぶ」という同和教育を基軸とした人権教育の視点を確かめ、「誰一人取り残さない」人権教育の創造をめざして、全国各地から具体的な実践を持ち寄り、多くの参加者のもと、活発な論議が展開されることが期待されている。

 節目となる第74回大会に、部落解放同盟の組織内外を問わず、全国各地から人権教育に関心を寄せる多くの方々の積極的な参加をお願いするものである。

 同和教育運動のなかで、「進路保障は同和教育の総和である」ともいわれることがある。その進路保障のとりくみにおいて、重要な役割を果たしてきたのが、「全国高等学校統一用紙」、いわゆる「統一応募用紙」である。本年は、その「統一応募用紙」が制定されて50年でもある。1970年代前半まで全国で使用されていた「社用紙」(就職応募用紙)では、「本籍地」「親の職業」「宗教」「支持政党」「購読新聞」など、本人の資質や能力と無関係な個人や家庭のプライバシーに関わる項目があった。それには当然のように記入が求められ、個人の責任や努力と関係ないことで合否が決められる差別選考が少なからず常態化していた。

 こうした就職差別の撤廃を求める粘り強い運動の結果、「統一応募用紙」の制定、「採用選考受験報告書」「追跡調査」の実施など、学校・教育行政、労働行政など関係機関・団体が一体となり、公正採用選考の確立に向けた仕組みが構築され、人権基準の向上など時代の要請に応じて、少しずつの改訂、改正を経ながら、今日の公正採用選考システムが構築されてきた。

 近年では、履歴書の性別欄の撤廃を求めるLGBTQ当事者を中心とした署名活動等の結果、2020年7月には従来の日本規格協会(JIS)の様式例が削除され、2021年4月に厚生労働省が性別欄を任意記入と示し、国として初めて履歴書の様式例が示された。従来のJIS規格の履歴書では、性別欄に「男・女」と書かれており、いずれかに丸をする方式が採られていたことと比べると、前進と評価する声もある。しかし、性別欄が廃止されたわけではなく、任意記載欄が設けられたことから、未記入により求職者が不利益を被る可能性や、性別欄をどう書くか新たな悩みが生じることが懸念されている。

 現在、履歴書の改訂を受けて、「統一応募用紙」についても、厚生労働省や文部科学省など関係省庁の間で見直しがすすめられている。以前、全国高校生活動者会議において、「統一応募用紙」の変遷についてワークショップをおこなったことがある。そこでは、出身について外国にルーツがあるなど、多様な高校生の現状に照らしてみたとき、「氏名」、「写真」の貼付など、現行の「統一応募用紙」にも改善の余地があるという議論が展開された。そのさい、参加していた高校生の一人から、不意に「一人として、記入したり、提出することに躊躇(ちゅうちょ)したり、ためらうことがない様式が必要である」という旨の発言があり、心から感動したものだ。文部科学省によれば、見直しにあたって、多くの方面から多くの意見が寄せられているとのことだが、耳を傾けるべきは、公正採用選考を求める当事者である高校生の声であり、守るべきは高校生の利益であることをあらためて指摘しておきたい。

 近年、学校教育では、とりわけ検定教科書の記述に代表されるように、学習指導要領から逸脱しないことや政府見解に沿った内容とすることを求めるなど、ときの為政者が教育の中立を侵す、不当な介入ではないかとの疑念が拭えない教育の不自由とも言いうる事態が散見される。

 人権教育では、教科書とあわせて、各地域の歴史や実情をふまえた副教材の作成など、創意工夫したとりくみが重要である。また、人権教育の実践の肝は、被差別の当事者や人権を侵害された側の視点から、抑圧と抵抗、尊厳の回復と人権獲得の歴史やプロセスに学ぶことである。人権の歴史は、被差別者、社会的マイノリティの抵抗の歴史そのものでもある。全国水平社創立に至る経過や、その後の糾弾闘争にふれることなく、部落問題学習は成立しない。

 人権教育において、「正しい知識」の獲得が奨励される向きもあるが、被差別者の抵抗の歴史を黙殺し、抑圧者の視点のみから描いた歴史観を強制し、抑圧する側が許容する内容を「正しい」とするものならば、その営みは、もはや人権教育とよぶに値しないものである。

 各地域において、あらゆる差別の撤廃と人権確立社会の実現に向けて、保護者、教師をはじめ差別と闘う教育集団を組織し、同和教育を基軸とした人権教育の新たな地平を切り拓こう。

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