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「差別されない権利」の実現へ第2弾裁判闘争と自治体や共闘との連携を

「解放新聞」(2023.12.25-3086)

 「全国部落調査」復刻版出版事件の東京高裁控訴審判決(主文「人格権に基づく法的救済」21〜24ページ)を以下に引用し、今後の運動の展望等について提起する。

 「部落差別は、我が国の封建社会で形成された身分差別により、経済的、社会的、文化的に不合理な扱いを受け、一定の地域に居住することが余儀なくされたことに起因して、本件地域の出身であることなどを理由に結婚や就職を含む様々な日常生活の場面において不利益な扱いを受けることである。上記のような部落差別は、差別される者の人間としての尊厳を否定するものに等しく、許容することができないものであることはいうまでもない」

 「憲法13条は、すべて国民は個人として尊重され、生命、自由及び幸福追求に対する権利を有することを、憲法14条1項は、すべて国民は法の下に平等であることをそれぞれ定めており、その趣旨等に鑑みると、人は誰しも、不当な差別を受けることなく、人間としての尊厳を保ちつつ平穏な生活を送ることができる人格的な利益を有するのであって、これは法的に保護された利益である」

 「本来、人の人格的な価値はその生まれた場所や居住している場所等によって左右されるべきではないにもかかわらず、部落差別は本件地域の出身等であるという理由だけで不当な扱い(差別)を受けるものであるから、これが上記の人格的な利益を侵害するものであることは明らかである」/「今日においてもなお本件地域の出身等であることを理由とする心理面における偏見、差別意識が解消されていないことから認められる当該問題の根深さ」

 「インターネットの普及により、(中略)識別情報の摘示を中心とする部落差別の事案は増加傾向にあること等に鑑みると、本件地域の出身等であること及びこれを推知させる情報が公表され、一般に流通することは、一定の者にとっては、実際に不当な扱いを受けるに至らなくても、これに対する不安感を抱き、ときにそのおそれに怯えるなどして日常生活を送ることを余儀なくされ、これにより平穏な生活を侵害されることになるのであって、これを受忍すべき理由はない」

 このように控訴審判決は、部落差別の今日的な現実に言及、認定した。そして、被差別部落の摘示情報をネット上に「さらす」行為にたいし、当該地域の出身等を理由に不当な扱い(差別)を受けるおそれがある者は「人格的な利益」に基づき、地域情報の公表の禁止や削除、損害賠償といった法的救済を求めることができる、とした。画期的な判決である。ぜひしっかりと読み込み、これからの運動に活かしていこう。

 第1に、被告である「鳥取ループ・示現舎」の主張を一蹴したことである。たとえば「本件地域情報(引用注:被差別部落の摘示情報)を公表しないことは、かえって部落差別を助長することになる」等との主張にたいし、「インターネットの普及により誤った情報、断片的な情報、興味本位な情報も見受けられるようになったことに照らすと、本件地域情報が公表され流通することにより、本件地域の出身等を理由とする不当な扱い(差別)を招来し、助長するおそれがあることは明らかであり、本件地域情報が公表されることによって、これが解決される具体的な根拠、見通しがあることを基礎付ける証拠もない」(28㌻)と断じた。

 高度情報通信ネットワーク社会にあって、被差別部落の所在地情報を流布する行為、部落差別はもとより種々の人権を侵害する言動の助長・拡散をなくす対策の強化が求められている。地方自治体レベルで「どのような対策ができるのか」の追及が必要である。

 第2に、部落差別に関して「本件地域(被差別部落)の出身等であるという理不尽、不合理な理由に基づく不当な扱い(差別)がこれを受けた者のその後の人生に与える影響の甚大さ」などと認定。本件地域の出身等を理由に不当な扱い(差別)を受けるおそれがある者は「人格的な利益」に基づき、法的救済を求めることができる、とした点に関して、当該の自治体に、被差別当事者(被害者)にたいする相談・支援・救済の体制の強化も含む「公的責任」を確認していこう。

 「地対財特法」の失効から20年余。この間「特別対策としての同和対策事業の終了=同和行政の終了」と曲解したり、「同和」という呼称を廃止したり、同和行政・同和教育行政の後退・形骸化は、いまの時代に逆行するものである。各自治体にたいし「部落差別を根絶する行政」の強化と推進を求めよう。

 第3に「本件地域の出身等であること及びこれを推知させる情報の公表も、上記の人格的な利益を侵害する」ことをふまえ、ネット上での部落差別を禁止・防止するため、当該自治体の「人権条例」や「部落差別解消条例」などの強化・改正、ネット上の人権侵害等を禁止する条例制定に向けた運動につなげていこう。

 そのためにも第4に、控訴審判決の内容を広く知らせるとりくみの推進が重要である。同盟員はもとより部落大衆・地域住民、「反差別・人権」等を旗印に集う被差別当事者団体や共闘団体、当該の自治体関係者、出身議員や連携する議員などにも理解等を広めていく「教育・宣伝」運動を、中央本部が編集したリーフレットなどを用いてすすめよう。部落差別をはじめとする「人格的利益の侵害」を許さない、すなわち「差別されない権利」を保障する人権政策の確立、ひいては包括的差別禁止法制定をめざして、地域の実情に合わせた運動を、中央本部としても積極的に支援する。

 中央本部は、鳥取ループ・示現舎による「部落探訪」問題に関し、大阪・埼玉・新潟の各府県連と当該支部等の協力を得て「第2弾の裁判闘争」をスタートさせた。鳥取ループは自身の有料サイトを立ち上げるなどして「被差別部落の所在地情報」を流布し続けており、同盟としてもこのまま野放しにはできない。

 裁判闘争で原告となる当事者本人の負担は想像に難くない。いまこそ、統一と団結、原告を孤立させない下支えする仲間が必要だ。各都府県連を通じて「さらされている地域」に裁判闘争への参加・協力等をよびかけているところでもある。裁判闘争を通じて「人格的な利益が侵害された者への法的救済」の確立を世に問うていきたい。草の根・地域レベルからの行政闘争、差別糾弾闘争、そして法廷闘争―。控訴審判決の意義をふまえた闘いに、中央本部・各都府県連・各支部がともに手を携えとりくんでいこうではないか。

 「本件地域の出身等であることを理由とする心理面における偏見、差別意識が依然として存在していることは、(中略)これまで戸籍謄本等の不正取得が繰り返され、平成20年に戸籍法が改正されて第三者による戸籍謄本等の交付請求が制限されたものの、依然として身元調査を目的とした戸籍謄本の不正取得が絶えないことなどに照らし、明らかである。」(元号ママ)

 ネット社会の今日、就職希望者を対象とする「裏アカ調査」を含む「SNS調査」の問題がとりざたされている。京都府連の要求で、京都府内の大学生を対象としたアンケート調査で明らかになった課題・問題点からも、公正な採用選考の今日的なあり方を問い直す時機でもある。厚労省との折衝等をおこなってきた労働政策運動部からの問題提起と、いまなお結婚や就職の際に差別身元調査がおこなわれている現実をふまえ、中央本部として、各都府県連にも協力をよびかけながら断固とした対策を求めていく所存である。

 一方、政府レベルでは、与党自民党を中心に国会議員へのロビー活動をはじめ院内外のとりくみを粘り強く展開しているところである。この11月に「ネット社会におけるプライバシーの在り方を考える議員連盟」(仮称。以下、ネット議連)が与野党の超党派で設立された。また総務省プラットフォームサービスに関する研究会「誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ」がとりまとめ(案)を公表した。ネット上の人権侵害に関わる法制度のあり方が、ネット議連を中心に議論されることが見込まれる。地方レベルでも「ネット上の部落差別の禁止」を中心とした対策等の強化を求めていく運動を押しあげよう。

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