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狭山事件の事実調べを求める署名運動を広げ、
東京高裁の家令和典・新裁判長に世論を届けよう

「解放新聞」(2024.03.15-3095)

 2023年12月、狭山事件の再審請求が係属している東京高等裁判所第4刑事部の大野勝則・裁判長が定年退官し、担当裁判長が交代した。後任の裁判長には、最高裁調査官、東京高裁判事、東京地裁、横浜地裁の裁判長などを経て、静岡家裁所長だった家令和典(かれい・かずのり)・裁判官が就任した。

 第3次再審では、2009年9月に当時の東京高裁第4刑事部の門野博・裁判長が三者協議をはじめ、同年12月に検察官にたいして証拠開示の勧告をおこなった。翌2010年5月に東京高検の検察官は、取調べ録音テープ、逮捕当日の上申書など36点の証拠を開示した。その後も、重要な証拠の開示がすすみ、開示された証拠資料にもとづいて、筆跡・識字能力鑑定や万年筆インク鑑定など269点の新証拠を弁護団は提出し、再審開始を求めてきた。2022年8月29日に事実取調請求書を提出し、これらの新証拠を作成した鑑定人のうち11人にたいする証人尋問と万年筆に関わるインク資料の鑑定の実施を求めているところだ。

 狭山事件で石川一雄さんがえん罪を訴えて61年になろうとしている。東京高裁第4刑事部の家令和典・新裁判長が鑑定人尋問とインク資料の鑑定を実施し、再審を開始するよう強く求めたい。

 裁判長交代をふまえて、弁護団は証拠開示および事実調べについて2月27日付けで意見書を提出した。

 弁護団は、スコップ、タオルに関わる捜査資料などの証拠開示を求め、数年にわたって協議がおこなわれているが、検察官は「開示の必要はない」「資料の存否を答える必要もない」としている。意見書は、こうしたこれまでの証拠開示請求の経緯をまとめたうえで、裁判所から検察官にたいして、証拠資料があるかないか釈明を求める(求釈明)とともに開示を勧告するよう求めた。

 また意見書で弁護団は、これまでの新証拠提出と審理の経過、第3次再審請求の全体について、プレゼンテーション(パソコンを使って図表などを掲示する説明)の実施を要望した。そして、プレゼンテーションもふまえて、鑑定人ら専門家の証人尋問(事実調べ)について、具体的協議をすすめることを求めた。

 一方、検察官は、2月22日付けで意見書を提出した。検察官は、弁護団の事実調べ請求にたいして、昨年2〜5月に意見書と反証を提出、弁護団はこれら検察官意見書の誤りを明らかにした新証拠、意見書を6〜10月に提出した。今回の検察官意見書は、これにたいする反論、反証で、スコップ、血液型、筆跡・識字能力、自白、殺害方法、指紋、足跡、目撃証言、万年筆発見経過、音声証言、万年筆インクについて、新証拠を否定したうえで、弁護団が求めている11人の証人尋問をすべて必要ないと主張している。また、インク資料の鑑定請求について弁護団が提出した補充書にたいしても反論し、必要ないとしている。弁護団は、この検察官意見書にたいする反論を今後提出することにしている。

 今年2月27日、家令新裁判長に交代して、はじめてとなる第58回三者協議がひらかれた。

 協議では、弁護団が意見書で要望したプレゼンテーションを次回三者協議で実施することが決まった。また、弁護団は、検察官が今回提出した意見書について反論を提出することを伝えた。次回の三者協議は4月中旬におこなわれる予定だ。

 事前にひらかれた弁護団会議で、昨年12月に亡くなられた中北龍太郎・弁護団事務局長のあとを受けて、竹下政行・弁護士が弁護団事務局長に就任することが確認された。事実調べ・再審開始実現に向けて全力でとりくんでいる弁護団の活動を後押しする世論喚起へと運動をすすめよう。

 2月26日に、NHKの朝のニュース番組「おはよう日本」で、再審制度をとりあげた特集で、狭山事件がとりあげられ、石川さんのインタビューなどが放映された。番組では、狭山市民集会に参加した袴田ひで子さんが「つぎは石川さんの番です」と訴える場面からはじまり、袴田巖さんよりも長くえん罪を訴えている人として85歳になった石川一雄さんを紹介。そして、この間、弁護団が証拠開示を求めているスコップの問題をとりあげ、再審の裁判が長引く原因の一つとして、再審請求の手続きで弁護側への証拠開示の規定がないことが指摘された。さらに、「再審法」の改正を国会ですすめるための議員連盟が結成されたことや、大川原化工機えん罪事件で、現職警察官が「ねつ造だ」と証言したこと、袴田事件の再審開始決定で東京高裁が捜査機関による証拠ねつ造の可能性と指摘したことなどが、この間マスコミで報じられている。いまこそ60年以上もえん罪を訴える狭山事件をアピールしよう。

 検察官は、弁護団が求めている11人の専門家の鑑定人尋問とインク鑑定の実施について、すべて必要ないとする意見書を今回また提出してきた。事実調べ・再審を求める運動をゆるめることはできない。

 今後、双方の意見書、主張をふまえて家令裁判長が事実調べの採否、再審の可否を判断する。私たちは、ひき続き、インク資料の鑑定の実施と鑑定人尋問を求める世論を広げ、署名運動をすすめ、東京高裁に届けることが必要だ。これまで52万筆を超える署名が提出されているが、さらに60万、70万と署名を拡大し、新裁判長のもとへ届けよう。

 不当逮捕から61年を迎える5月23日には、東京・日比谷野音で市民集会がひらかれる。また、中央本部では、「さようなら原発集会」や連合の中央メーデーなどで狭山再審への宣伝活動、署名活動をおこなう。各地においても、メーデーなど、さまざまな場で宣伝活動、署名活動にとりくんでほしい。

 また、「再審法」改正を求める世論、再審手続きを公正・公平に変えていこうという世論が裁判所を動かす力にもなる。再審請求における検察官の証拠開示の義務化、再審開始決定にたいする検察官の抗告の禁止、裁判所による事実調べなどの規定を盛り込んだ「再審法」改正(「刑事訴訟法」等の改正)の実現に向けて、国会請願署名もあわせてとりくもう。

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