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「情プラ法」を具体化し、部落解放・人権政策確立に向け、
さらなる法制度の充実を求めよう

「解放新聞」(2024.05.05-3100)

 2024年度部落解放・人権政策確立要求第1次中央集会を5月22日、東京・日本教育会館でひらく。インターネット上の部落差別・人権侵害根絶へ、各地で「識別情報の摘示」や「インターネット上の人権侵害」にかかるモニタリング活動や削除要請のとりくみが積みあげられてきた。こうしたうねりとあいまって「プロバイダ責任制限法の一部を改正する法律案」(以下「情報流通プラットフォーム対処法案」(略称「情プラ法」))成立という「一つの節目」を迎える時機の開催となる見込みである。「情プラ法」の趣旨・目的に関する理解を深め、部落解放・人権政策確立要求の運動をさらに前進させていこう。

 ちょうど1年前の本紙「主張」で「インターネット上における部落差別や人権侵害を禁止する法制度の整備」を視野に入れてとりくもうと提案した。中央本部はこの間、自民党「差別問題に関する特命委員会」をはじめ、勉強会の開催、衆参委員会での質疑など、与野党の国会議員に働きかけてきたところである。

 「情プラ法」は、プラットフォーム事業者(以下、事業者)による自主的なとりくみだが、事業者自身がどのような権利侵害情報を削除するのか「削除指針」を作成・公表する。当該のプラットフォームで被害を受けた者からの削除要請にたいし「一定期間(1週間程度を検討)」のうちに「削除するのか、しないのか」対応すること。そして要請のあった被害者に「削除した理由・削除しなかった理由」を説明することを義務づける。総務省の委託事業「違法・有害情報相談センター」には、この間「どこに相談すればよいのかわからない」との問い合わせが相談全体の6割以上を占めている。事業者には、だれもが削除などの申請が容易にできるように「相談窓口」を明確にすることも義務づけられる。「情プラ法」成立を、インターネット上の差別を禁止する法制度の整備に向けて、確かな一歩にしていくことが必要である。「情プラ法」の趣旨・目的、内容について理解と認識を深め、有意義に活かし、インターネット上からの部落差別をなくすとりくみを地方レベルでも展開していくことが求められる。同時に、包括的差別禁止法と国内人権救済機関の整備をめざして、運動を着実に前進させていくことも確認しておきたい。

 以下、「情プラ法」に関し具体的な課題をのべる。

 第1点目に、インターネット上の「プラットフォームサービスにおける誹謗中傷・人権侵害」にたいする横断的な人権対策として、事業者の自主的なとりくみを規定し、当該情報に対処することを目的とした法律である。この間、個別具体の人権関係法(しかも「理念法」)が成立してきたことからみれば、大きな一歩であることは間違いない。

 2点目に、「情プラ法」で削除要請の対象となる情報は「権利侵害情報」とされているが、プライバシー侵害や名誉棄損、著作権などじつに幅広い。事業者が作成・公表する削除指針をもとに「権利侵害情報」を削除するか否かの判断とその理由の説明をおこなうことや、被害を受けた人への対応を、事業者の自主性にゆだねることから、温度差が生じることが大いに懸念されている。政府・総務省として一定のガイドラインを示して、事業者のとりくみを積極的に支援すべきだ。

 また昨年、「全国部落調査」復刻版出版事件の東京高裁判決で「差別されない人格的利益」が認められた。はたして「情プラ法」で被差別部落の「識別情報の摘示」は対象か否か。「情プラ法」の本格施行にあたり、中央本部としても関係省庁と論議を積みあげて、懸案課題などにとりくむ。同時に「部落差別の解消の推進に関する法律」に「インターネット上の部落差別の禁止」等を規定した改正を見すえながら、院内での働きかけなどに粘り強くとりくむ。

 3点目に、「情プラ法」の対象は大手の事業者であり、中小の事業者やウェブサイト管理者は対象外である。すべての事業者を対象に「情プラ法」の趣旨をふまえたとりくみをどう普及させていくかも今後の課題である。

 4点目に、事業者の自主規制により、差別や人権侵害への対応が積みあげられることになるが、プラットフォームサービスは、インターネットに付随するサービスの一つ。インターネット上では、偽情報や誤情報を流布するなどにより、差別や偏見等を助長したり、あおったりなどの行為も厳然として存在している。「情プラ法」本格施行により「権利侵害情報」対策としての知見などは集約される。となれば、「インターネット上にはびこる差別・人権侵害」対策のあり方が問われていくものと考えている。第81期第1回中央執行委員会で、中央理論委員会内にサイバー運動検討部会を設置することを確認した。インターネット上の部落差別対策のとりくみ強化へ、各都府県連の協力をお願いする。

 懸案は、差別や人権侵害を受けた被害の当事者がみずから声をあげ、訴訟などにより立証責任を負わせるという仕組みに変わりがないという問題である。

 先日、フォトジャーナリストの安田菜津紀さんへのツイッター(現X)上での在日コリアンへのヘイト行為にたいする控訴審判決があった。第一審を支持し損害賠償を認めたものの「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けたとりくみの推進に関する法律」(以下「ヘイトスピーチ解消法」)が定める「差別的言動であり悪質」との安田さんの主張にたいし「ヘイトスピーチ解消法は理念法」であり「一概に差別的言動の方が悪質だとはいえない」として退け、「差別的表現による侮辱」との判決を出した。司法がとるべき判断は「差別的言動であり悪質」と認定できない現行法の限界と不備を指摘することではなかったか、と強調したい。このことからも、インターネット上における差別や人権侵害に対応する「第三者機関」の整備を求めていくことの認識を新たにした。

 会見で「判決の積み重ねには時間がかかる」「救われない被害がこぼれ落ちていることを重く受け止めなければならない」「被害者の自助努力や我慢に負わせるのではなく、包括的差別禁止法や政府から独立した人権救済機関の設置が求められる」と安田さん。いま新潟、埼玉、大阪で「部落探訪」削除裁判にとりくむ私たちもまったくの同感である。そんな思いと願いを共有した運動が求められているのだ。

 「第三者機関」の整備へ「情プラ法」を具体化するとりくみを政府・地方自治体・事業者レベルで積みあげていくことが重要である。決して「救われない被害」がこぼれ落ちないように、泣き寝入りすることがないような対策等の強化を、地方レベルで運動としてとりくんでいこう。なかでも重要な課題の一つは「インターネットを安全に正しく使うための知識や能力」(インターネットリテラシー)という、インターネット上で被害を受けたり、加害者になったりしないようにするための力をどう身につけるかという問題である。仮に被害にあった場合、インターネットリテラシーの課題を念頭において相談・支援体制の整備が求められる。教育現場で深刻化する「SNSいじめ」から子どもたちを守るためにも「いじめ防止対策推進法」の具体化など、これらを包含した「情プラ法」と連動する「条例」の検討も視野に入れてとりくんでいこう。

 「情プラ法」成立は一つの節目である。めざすべきは包括的な差別禁止法の制定であり、独立した国内人権救済機関の整備である。中央本部としても、地方でのとりくみが積極的に推進されるよう財政的支援を関係省庁に求める所存である。地方レベルで「情プラ法」を具体化するとりくみから立法事実等を積みあげ、さらなる法制度の充実を求める運動を展開しよう。

 

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