「解放新聞」(2025.07.25-3145)
鳥取ループの「部落探訪」の削除を求める「部落探訪」削除裁判は、被告の鳥取ループが裁判官の交代や裁判所の移送(変更)を申し立て、提訴から1年以上も延期されていた。その申立てが却下されたために、ようやく開始され、4月には埼玉で進行協議が、6月には大阪、新潟で口頭弁論がおこなわれた。その結果、9月には埼玉、大阪、新潟で口頭弁論がおこなわれることになった。このうち埼玉は9月10日の口頭弁論で事実上、結審になる可能性が高い。この裁判は、鳥取ループの露骨な差別扇動との闘いであり、決して負けるわけにはいかない闘いである。全国の都府県連や支援団体にあらためて裁判支援を訴えたい。
三つの裁判のうち埼玉ではすでに3回の口頭弁論がおこなわれ、先行していたが、その後、被告による移送申立てで裁判が延び延びになっていた。しかし、被告の申立てを却下したことをふまえて、4月24日に訴訟の進行に関する協議がおこなわれた。その結果、9月10日に口頭弁論がおこなわれることになった。進行協議で裁判官は次回の口頭弁論で審理を終了したい意向を示したので、埼玉は年内にも判決が出る可能性が高くなった。
大阪では、6月11日に第2回口頭弁論がおこなわれ、次回の期日などが決められた。大阪訴訟では、大阪府連と富田林支部の代表が原告になっているが、報告集会では大阪府連西成支部、野崎支部、西郡支部の代表が今後原告となって裁判に参加する決意を表明した。これは「部落探訪」削除裁判にとって大変重要な出来事で、一支部だけの闘いが一挙に広がることになる。大阪では、これ以外の支部も原告参加を検討しているそうなので、大いに期待したい。また、全国の各支部が大阪に続いて原告に参加することを望みたい。なお、報告集会で、原告の富田林支部代表は、被告鳥取ループが最近また地元に来て地区の施設の動画をX(旧ツイッター)に投稿した、と報告した。
新潟では6月25日に第2回口頭弁論がおこなわれ、新潟県連の長谷川均・委員長が意見陳述した。長谷川委員長は「最近、市役所に部落の所在を確認する問い合わせや、運動体の所在を執拗(しつよう)に聞き出す問い合わせが出始めている」と報告、「部落探訪」が県民に大きな影響をおよぼしていると指摘した。また昨年12月発表の県民人権意識調査結果では、「身元調査」を容認する割合が増加したと報告。被告の「部落探訪」が、県内の部落差別を助長していると指摘した。
裁判は前述のように埼玉が先行し、年内にも判決が出される見通しになったが、最大の争点は、団体として部落解放同盟が原告になれるのかどうか、原告になって「部落探訪」にさらされている地域全部の差し止め(削除)を請求できるのかにある。じっさい、この裁判に先行する「全国部落調査」復刻版出版事件裁判では東京地裁も高裁も、団体として部落解放同盟が原告になることはできないと、これを拒んだ。損害賠償を求める民事裁判である以上、被害を受けた当事者でなければ原告になれない、という「民法」の原則を持ち出したのである。われわれ部落解放同盟はこれを強く非難したが、結果的に認められなかった。この問題が、今回の「部落探訪」でもつきまとう。ここはどうしても乗り越えなければならない問題である。
埼玉では、すでに準備書面や陳述書を提出しているが、この争点について以下のように主張した。
部落解放同盟が原告になったのは第1に、同盟の支部員や地域住民から強い削除要請があるからだ。じっさい、「部落探訪」にさらされた地域住民から「なんとか消してほしい」と強く要請されている。なかには「解放同盟は何をやっているのか。あれが消せないで何のための解放運動だ」などと叱責する声もある。
第2に、現に部落差別があるなかで、個人が原告になるのはリスクや負担が大きすぎるためである。被告はこれまで裁判所の決定を無視して戸籍を含んだ裁判資料をネットにさらし、また原告の自宅やその周辺をうろついて原告に関連した個人情報をネットに投稿しており、原告になることは、相当なリスクをともなう。これを考えたとき、部落解放同盟が声をあげられない被害者の代弁者として原告になるべきである。
第3に、東京地裁も高裁も判決で、鳥取ループの部落さらしは違法であり、差別を助長拡大することを認めたうえで、差し止めの範囲を、市町村単位ではなく県単位としており、この「部落探訪」削除裁判においてもこのルールを採用するべきである。
第4に、そもそも部落解放同盟は、被差別部落住民の権利を守ることを目的に結成された団体であり、今回、「部落探訪」によって広範囲にわたって同盟員や被差別部落住民が人権侵害を被っている事態に直面して、部落解放同盟には被害を受けている者の代弁者として権利を行使する使命と役割があるからである。
「部落探訪」に触発されて、各地で身元調査や問い合わせが続いている。
神奈川県連の報告によれば、4月17日、横浜市泉区在住を名乗る高齢男性が、県連事務所を訪れ、「茨城県土浦市A地区に部落はあるのか」「息子の嫁の名前はBというが、この名前は部落の者か」「ここに来れば教えてくれると思って、腰が悪いのに苦労して来た」と続けざまに言いつのった。対応した事務局員が「部落の場所や出身かどうか聞くことは差別行為にあたります」と忠告しても「インターネットで調べることはできるが、調子が悪いのでここなら教えてくれると思って聞きに来た」「腰が悪いのに無理してきたのに、教えないのか」と居直ったが、説得の結果、20分ほどで帰ったということである。
2020年におこなわれ、21年に結果報告された「横浜市人権に関する市民意識調査」の「結婚相手の身元調査をすることについての認識」について「わからない」が36・0%、「当然のことと思う」が31・6%、「おかしいと思う」が30・8%となっている。しかも、年代・性別を問わず、30%前後になっている。
電話による問い合わせも続いている。同じく神奈川県連事務所に5月14日、問い合わせの電話がかかってきた。タナカと名乗る女性で、関西在住の60代だという。彼女は「夫の本籍地は、横浜市A区B町1丁目だったが本籍地をC区D町に移した。部落かどうか知りたい」と聞いてきた。「なぜ部落かどうか知りたいのですか」という問いに、「結婚のときに釣書はなかった。長男の嫁が「本籍地が良くない」と言っていたのが気になり、電話した」と答え、なぜ部落と思ったのかと質問すると、「本籍が良くない」と言われたことと、「夫の兄弟に金を貸したが、返してもらえなかった」ことを根拠にあげた。家庭内のトラブルで自分を有利にするために部落を利用しているのではないかと問いただすと、「申し訳ない」と言って電話を切った。
このような問い合わせが全国各地で報告されており、鳥取ループの「全国部落調査」復刻版や、「部落探訪」のインターネット掲載が各地で差別意識を助長している。
東京高裁は、部落の所在地リストが、身元調査の材料として悪用されることを認めて差し止めたが、「部落探訪」は地域ごとに写真や動画を掲載し、それに記事や自分自身の説明を加えており、よりいっそうリアルな材料として身元調査に利用される。じっさい、各地でその事例が報告されている。「部落探訪」は見る者の差別意識を喚起し、部落に住む人々の「差別されないで平穏な生活を送る権利」を侵害し、さらに身元調査の材料として悪用されるのだ。その「部落探訪」削除裁判は、今年から来年にかけて判決を迎える。この悪質な部落差別情報を消すための裁判闘争に勝って、包括的な差別禁止法の制定につなげていこう。
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