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「解放新聞」(2025.11.05-3155)
6月10日におこなわれた第4次再審請求の第1回三者協議を受けて、弁護団は、6月27日、7月11日に、取調べ録音テープの心理学鑑定に関わる主張などを補充した再審請求補充書、論点ごとに新証拠の要旨とその主張を整理した一覧表、スコップ、タオル関係の証拠開示勧告申立書などを提出した。これらは裁判所が協議で釈明を求めたもので、弁護団はすべて対応した。
一方、第1回の三者協議で、検察官は、第3次再審請求と第4次請求の異同を確認するので、意見書提出に時間がかかるとした。これにたいして弁護団は、7月11日に提出した再審請求補充書で、第4次再審請求は、第3次再審請求と同一の新証拠、同一の主張であり、主張・証拠の異同を確認する必要がないことを指摘したうえで、実質的に審理を引き継ぎ、効率的な進行を裁判所に求めた。そして、東京高検にたいしても同じ書面を提出し、確認すべき事項があれば8月10日までに弁護団に連絡するよう求める要請書を提出した。その後、検察官からは何の応答もなかった。
検察官は、弁護団が新証拠として提出した、万年筆インクの蛍光X線分析鑑定(L鑑定)について、第1回三者協議で、9月末までに反論の意見書を提出するとした。もともとL鑑定は弁護団が第3次再審請求で昨年12月に提出したもので、今年3月におこなわれた三者協議で検察官は5月中旬に反論を提出するとしていた。
9月30日に検察官が提出した意見書は13ページ足らずで、科学警察研究所の技官から検察官が聴取した1ページの報告書が添付されたものだった。検察官は、I鑑定(I名誉教授がL鑑定とは別の蛍光X線分析装置を使っておこなった万年筆インクの鑑定)にたいする反論として第3次再審請求で提出した意見書5通をあわせて提出した。これら第3次再審請求で提出された意見書は、2020年から2024年までに、弁護団提出の新証拠にたいする反論として作成されたもので、現在の担当検察官である田澤検事や吉浪検事も作成者に入っているものだ。このような意見書作成に3か月以上もかかるとは思えない。
L鑑定の結果は、被害者が事件当日(1963年5月1日)に学校で書いたペン習字浄書の文字インクや使っていたインク瓶のインクからは、蛍光X線分析装置で、クロム元素(Cr)が検出されるが、3回目の石川さん宅の捜索で見つかったとする発見万年筆で書いた数字からは、クロム元素が検出されなかったというものだ。弁護団は、発見万年筆は被害者のものとした有罪判決に合理的疑いが生じているとして再審開始を求めている。今回の検察官意見書は、この鑑定結果を直接争うのではなく、万年筆を水洗いして別インクを入れ替えれば、しかも、そういう水洗いを何回もくり返せば、クロム元素が検出されない可能性があるという主張だ。とうてい科学的とはいえない。弁護団は、この検察官意見書の誤りを、L鑑定人の証人尋問で専門的見地から明らかにするとし、尋問事項の追加と尋問の必要性について記載した事実取調請求書を10月9日付けで裁判所に提出し、証人尋問の実施をあらためて求めた。
10月14日に第4次再審請求の第2回の三者協議がおこなわれた。検察官は、前回の協議と同じように意見書提出は年度末になるとした。弁護団は、第4次再審請求の新証拠と主張は同じであり、検察官はもっと早く意見書を提出してもらいたい、裁判所は意見書提出を待たずに鑑定人尋問を実施してもらいたい、とのべた。しかし、検察官は、意見書は年度末に提出するとくり返し、裁判所は、検察官の意見を聴かないうちに尋問等をすすめることはできないとして、証人尋問の採否は先送りとなった。次回の三者協議は2026年2月下旬におこなわれる。
弁護団が主張するように、第4次再審請求は第3次再審請求と同一証拠、同一主張である。裁判所が釈明を求めた点について、弁護団は補充書等を提出し、すべて対応し、すみやかな尋問実施を求めてきた。現在、東京高検で狭山事件を担当する検察官は、一人は昨年4月から、もう一人は2020年から2022年まで担当し、いくつも意見書を作成してきた検察官だ。もっと早く意見書提出できるはずではないか。この間の検察官の主張は、明らかに裁判長の退官を見すえて、不当に引き延ばしをはかっているとしか思えない。検察官の対応を強く批判する。
私たちは、石川早智子さんによる第4次再審請求を全力で支援し、石川一雄さんの再審無罪判決を実現し、えん罪を晴らさねばならない。各地で、狭山第4次再審闘争勝利に向けて集会や街頭宣伝にとりくみ、東京高裁第4刑事部が証人尋問を実施し、再審開始を決定するよう求めて、世論をさらに拡大しよう。
10月10日には、全国から寄せられた、東京高裁第4刑事部に証人尋問の実施と再審開始を求める署名21万5303筆を、狭山事件の再審を求める市民の会が提出した。要請した鎌田慧さん、落合恵子さん、佐高信さんは、これらの市民の声、石川一雄さんの遺志を継いだ早智子さんの思いを受けとめてほしい、と求めた。今後さらに多くの署名を裁判所に届けたい。狭山再審、無実の石川さんの雪冤を求める市民の声をさらに東京高裁に届けるために、新100万人署名運動を全力ですすめよう。
袴田事件の再審開始を受けて、昨年3月に、超党派の「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」(会長:柴山昌彦・衆議院議員(自民党)、幹事長:逢坂誠二・衆議院議員(立憲民主党)、事務局長:井出庸生・衆議院議員(自民党))が結成され、えん罪当事者のヒアリングや「再審法」改正が実現した台湾の実例に学ぶ勉強会をひらくなど活発に活動をすすめた。そのうえで、今年5月に①再審請求人側から請求があれば、裁判所は検察官に証拠開示を命じなければならない(証拠開示命令)②裁判所が再審を開始した場合に検察の不服申し立てを禁止する(再審開始決定にたいする不服申し立ての禁止)ことを柱とする「再審法」(「刑事訴訟法」)改正の法案がまとめられ、議連総会で確認された。議員連盟の「再審法改正案」は、6月18日に、野党6党(立憲、国民、社民、共産、れいわ、参政)により衆議院に提出され、衆議院法務委員会に付託されて継続審議となっている。
袴田事件や福井事件などこれまでの再審無罪事例を教訓に、えん罪被害者のすみやかな救済のために、「再審法」改正を求める声は広がっている。地方議会での「再審法」改正を求める意見書の採択もあいついでいる。兵庫県では6~9月に、県議会、三木市、芦屋市、姫路市、明石市、宝塚市など12市町の議会で意見書が採択された(1県15市町議会で採択)。9月には、静岡県、京都府に続き、大阪府でも府内の全地方議会(府議会と43市町村議会)で意見書が採択されている。9月末段階で、25道府県議会、政令指定都市の15議会を含む766議会で意見書が採択されている。また、茨城、山梨、静岡、石川、奈良の県知事を含め、250の地方自治体の首長が改正への賛同を表明している。「再審法」改正を求める国民の声の広がりを示すものだ。
「再審法」改正は、狭山事件の第4次再審請求の今後にとっても、重要かつ喫緊の課題だ。
「再審法」改正は、検察官が事務局となっている「法制審議会」にはまかせておけないことをあらためて強調しておきたい。臨時国会で議連法案が可決成立し、えん罪被害者の声を反映した「再審法」改正が実現するよう求めよう。日弁連や「再審法改正をめざす市民の会」、えん罪と闘う仲間と連携しながら、狭山事件の再審とあわせて「再審法」の不備、不公平を訴え、議連法案の可決成立、「再審法」改正の実現を、地元の国会議員へ強く要請しよう。あわせて、「再審法」改正を国会に求める請願署名、地方議会での意見書採択、首長の賛同表明などのとりくみをひきつづきすすめよう。

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