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「世界人権宣言」77周年に向けて、多様性を認め合う社会を実現しよう

「解放新聞」(2025.12.05-3158)

 12月10日は「世界人権宣言」が1948年に国連で採択された記念日である。「世界人権宣言」を忘れたかのような第80回国連総会が今年9月、ニューヨークで重苦しい閉塞感のなか、ひらかれた。トランプ大統領が「国連の難民政策や気候変動対策は無用の政策だ」などと国連批判をくり広げた。ウクライナ侵略に抗してゼレンスキー大統領が悲壮感を漂わせながら演説したが、各国の反応は冷ややかであった。イスラエルの軍事侵略による植民地化で、ガザ地区の都市は廃墟となり、支援物資の輸送を妨害されて餓死者が膨大である。ジェノサイドである。国連総会でイギリスやフランスが「パレスチナの国家承認」の外交カードを切った。「二国家共存」のオスロ合意である。ネタニヤフ首相は国際刑事裁判所から逮捕状が出されているにもかかわらず議場で熱弁をふるい、パレスチナ暫定自治政府のアッバス議長はアメリカの妨害で入国を認められず、ビデオ演説となった。安全保障理事会にアラブ諸国が再三「戦闘停止」の決議案を提出してもアメリカの拒否権で葬り去られた。「力の支配」が台頭し、第二次世界大戦後築きあげてきた国際法の「法の支配」による国際秩序維持は危機に瀕している。

 一方、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は爆撃がくり返されるなか、ガザで学校や病院を運営し、食糧や衣料品などの支援物資を配給し、住民とともに働き、住民の命をつないでいる。

 オランダの「国際法の都」ハーグには国際司法裁判所(ICJ、岩澤雄司・所長)があり、国際刑事裁判所(ICC、赤根智子・所長)がある。ICJはロシアやイスラエルの軍事行動を停止させる暫定措置命令を出し、パレスチナ占領の国際法違反を明示した勧告的意見を出した。国際法の権威による断罪は国際社会で共有された。ICCは戦争犯罪や人道にたいする罪、侵略犯罪を犯した個人の刑事責任を追及する。大国の激しい圧力を受けながら、プーチン大統領やネタニヤフ首相らに戦争犯罪などの疑いで逮捕状を発付した。国際社会の犯罪者の烙印は「人類にたいする罪」として記憶される。国際法の番人である判事や検察官は制裁を科されながら、国際法による「法の支配」を貫いている。

 戦争の悲惨を深く反省して採択された「世界人権宣言」を、もう一度確認し合う必要がある。12月9日「世界人権宣言77周年記念東京集会」を全電通会館で、岡真理・京都大学名誉教授を迎え、「パレスチナ問題から考える平和と人権」を主題にひらく。大阪集会は12月10日、大阪市立阿倍野区民センターで「戦争トラウマ 現在(いま)も続く加害と被害」をテーマにひらき、信田さよ子さんと藤岡美千代さんに語ってもらう。また、来年3月の国際人種差別撤廃デーには、日本が加入して30年になる人種差別撤廃条約の国内完全実施を促すために、国連専門家を招いた国際会議の開催をめざしている。

 「力の支配」が横行し、奴隷制や植民地支配や虐殺がおこなわれた時代から、国家の主権を認め、戦争は平和にたいする罪で、奴隷制や植民地支配は人道にたいする罪で裁かれる時代になった。「すべての人は存在するだけで尊い」とする人権の普遍性が確認された。戦争や飢餓・虐殺が起きるたびに人権侵害にさらされてきたマイノリティの権利保障が重視される国際人権法が確立してきた。「世界人権宣言」・国際人権諸条約に体現された。「力の支配」を「法の支配」に変えることで国際秩序を維持することになった。

 人種差別のないアメリカ社会建設を求めた公民権運動は1964年「公民権法」を成立させ、差別禁止規定を盛り込んだ。公民権運動は黒人への人種差別だけでなく、先住民族、移民、性的マイノリティ、女性などの権利拡張運動でも成果をあげてきた。とくに人種や性別にもとづく過去の差別を是正するための「積極的差別是正措置」として優先枠を設けて登用するとりくみはマイノリティの権利拡張を支えてきた。

 2020年、アフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイド殺害にたいする抗議行動が続き、「BLM=黒人の命は大切」が叫ばれ、女性差別を告発する「#Me Too運動」も続いた。制度的人種差別を解決するために、「多様な背景を持つ人々を、公平な条件で、組織の一員として包摂する(DEI)」が強く主張され、多様性を認める包摂的な多文化主義の社会を実現することをめざした。「多様性こそ社会を豊かにしていく」との肯定的評価が定着した。オバマ大統領の選出はその象徴であった。企業側からは「多様性が重要であり、企業価値を高める」として、反人種主義・反差別への関心からではなく、組織の効率性や革新性に結びつけたDEI運動として盛りあがった。

 しかし、DEIが白人への差別だとする主張も根強くあった。2023年、連邦最高裁は、ハーバード大学などの入学試験での「多様性を求める人種考慮」は、「法の下の平等原則」に違反するとして、多様性を尊重する「積極的差別是正措置」を否定した。白人とアジア系アメリカ人の訴えを認めた。

 今年1月に再登場したトランプ大統領は「反DEI」の方針を鮮明にし、マイノリティ差別を撤廃する政府や公的機関のDEIプログラムを廃止することを命じた。第2期トランプ政権での攻撃対象はあらゆる弱者やマイノリティにおよぶ。記者会見の手話通訳すら廃止した。マイノリティが優遇され、白人男性が差別されたというわけだ。さらに、非正規移民を路上で逮捕し、裁判もせずに強制送還を実施した。高齢者や低所得者向けの公的医療保険の予算の大幅な削減。途上国の医療支援や食料支援をしてきた米国国際開発庁(USAID)は事実上解体され、世界各地での人道的支援は壊滅状態である。\_c12070雇用機会均等法」のもとでDEIプログラムを推進する企業に廃止を迫り、アマゾンやマクドナルドなどの企業が縮小ないし廃止をした。さらに撤退を表明する大学も出てきた。白人差別と結びつけた過剰なバックラッシュであり、マイノリティにとって厳しい状況が生み出されている。

 今年7月、日本の参議院選挙では外国人政策が争点化された。人権の普遍性の立場から外国人の人権尊重を主張した政党は少なかった。「公職選挙法」に守られながら、反撃のできない外国人をターゲットにした排除の攻撃は卑劣だ。選挙では「日本人ファースト」のヘイトスピーチによる扇動が多くの票を集めた。政党の情宣内容より、多くの日本人が扇動されていく姿を見せつけられた外国人たちは心底恐怖を覚えたと語る。

 第二次世界大戦後の世界は、「すべての人は例外なく社会の構成員として処遇される」人権の普遍性概念を獲得してきた。例外とされたマイノリティが弾圧され、虐殺されてきたことの反省から、「例外をつくらない」人権概念を確立してきた。参議院選挙で展開された多様性を認めない外国人排除論は第二次世界大戦前の「力の支配」の時代の人権論であった。

 少子高齢化による人口減少社会では、外国人労働力の受け入れは避けて通れない。毎年35万人の受け入れを決めている政府は、外国人の移民・定住計画を国際人権基準にしたがって説明し、共生のための社会的合意形成をする必要があるが、まったく怠っている。

 日本におけるDEIのとりくみはこれからである。女性差別を克服し、ジェンダーギャップ指数118位を脱することである。アメリカの「反DEI」の潮流は、義務的な数値目標だけで多様性を演ずる形式的なとりくみへの反発である。属性によってただ割り当てるだけではなく、多様性が生み出す本質的な豊かさを共有し、すべての人に公平な機会を保障する流れを創造することである。多様性を認め合いながら、公平に扱われ社会の構成員として例外なく包摂される、豊かな社会をめざすDEIのとりくみをすすめよう。

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