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NEWS & 主張

主張

 

熊本での全国人権保育研究集会に参加し、
解放保育・人権保育運動の大きな前進を

「解放新聞」(2025.12.15-3159)

 昨年12月、こども家庭庁は「保育政策の新たな方向性」を公表し、これまでの待機児童対策を中心とした「保育の量の拡大」から「保育の質の確保・向上」へと政策を大きく転換し、持続可能で質の高い保育を通じた「こどもまんなか社会」の実現をめざすとした。2025年度から28年度末までの政策として、「1.地域のニーズに対応した質の高い保育の確保・充実」「2.全てのこどもの育ちと子育て家庭を支援する取組の推進」「3.保育人材の確保とテクノロジーの活用等による業務改善」の三つの柱を軸に推進するとしている。

 1については、地域の課題に応じた提供体制の確保、職員配置基準の改善、保育の質の確保・向上、安全性の確保が示された。具体的な施策として、地域の現状や課題に合わせた保育提供体制の確保をすすめるための実施計画の作成、人口減少地域での統廃合や規模の縮小、多機能化の推進、昨年度改善された職員配置基準の促進や1歳児の職員配置の改善、虐待や不適切保育・事故等の防止・対応の強化、防災機能・対策の強化などが例示された。

 2については、「こども誰でも通園制度」の推進、「多様なニーズに対応した保育の充実」「家族支援の充実、地域のこども・子育て支援の取組の推進」が示された。具体的な施策としては、「こども誰でも通園制度」について25年度の制度化と26年度の本格実施、「障害児・医療的ケア児等」の受け入れ強化、「異なる文化的背景を持つこども」への支援、病児保育・延長保育・一時預かり事業など、多様なニーズに対応した保育の提供体制の確保、家族への支援、「地域のこどもや子育て家庭への支援」などが例示された。

 3については、保育士・幼稚園教諭等の処遇改善、保育人材の確保のための総合的な対策、保育の現場・職業の魅力発信、保育DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進による業務改善が示された。具体的な施策として、処遇改善等加算の一本化と活用促進、経営情報の見える化、働きやすい職場環境づくり、離職者の再就職・職場復帰の促進、保育所等におけるICT(情報通信技術)環境整備などが例示された。

 今年6月には「こどもまんなか実行計画2025」が公表された。小中高生の自殺者数、いじめ重大事態の発生件数、不登校児童生徒数、児童虐待相談対応件数が増加し、少子化に歯止めがかかっていない現状等をふまえ、三つの重点領域を示した。①「困難に直面するこども・若者への支援」②「未来を担うこども・若者へのより質の高い育ちの環境の提供と少子化対策の推進」③「「こどもまんなか」の基礎となる環境づくりの更なる推進」を重点領域とし、重要事項に「幼児教育・保育の質の向上」「特別な配慮を必要とするこどもへの支援」「保育士・保育教諭・幼稚園教諭等の人材育成・確保・処遇改善」などが盛り込まれ、「処遇改善を通じた他職種と遜色ない処遇を実現する」と明記された。

 11月21日、高市政権は、物価高への対応などを柱とする総合経済対策を閣議決定し、電気・ガス料金の補助や重点支援地方交付金の拡充のほか、子育て応援手当として18歳までの子ども一人あたり2万円を給付することも盛り込まれた。また、同日、こども家庭庁は保育士らの人件費を5・3%引き上げることと物価高に対応するため、保育所や児童養護施設などに運営費の補助をおこなうことを発表した。

 来年4月からは、少子化対策のための特定財源である「子ども・子育て支援金」の徴収が始まる。国は「社会保障の歳出改革や賃上げにより、国民に実質的な追加負担は生じさせない」と説明していたが、社会保障の歳出削減は想定どおりにすすんでおらず、急激な物価高に賃金の上昇が追いついていない現状がある。28年度まで段階的に引き上げられる予定になっており、今後の予算編成や政策の実施状況など、子どもの権利の実現のための施策を具体的、効果的に実施するための財源となっているか確認していく必要がある。

 また、来年12月25日には、子どもを性暴力から守るために、保育施設、学校、放課後児童クラブなどで子どもと関わる人の性犯罪歴の確認を事業者に義務づける制度(日本版DBS)の導入などを定めた「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律(こども性暴力防止法)」が施行される。年内にガイドラインが作成される予定になっており、今後の動向を把握していかなければならない。

 子育て支援や少子化対策などさまざまな政策が発表され、保育に関しては量から質への転換がはかられ、多様な対策が盛り込まれたことは大きな進展といえる。しかし、隠れ待機児童問題や認可外保育施設への対応をはじめ、外国人幼保施設・民族学校の保育施設が無償化の対象外となっている問題など、課題が山積するなか、さまざまな保育制度・施策の動向を把握するとともに、今後の保育がどうあるべきか議論し、よりよい保育制度・施策の充実を求めていく必要がある。また、保育制度の充実においては、保育人材の確保と育成が必要不可欠であるにもかかわらず、その養成学校が減っている現状をふまえた政策も必要だ。

 わたしたちのとりくむ人権保育は、子どもたちの教育保障を0歳から就学前まで24時間保育の視点に立って保護者や地域とともに、保護者集団の組織化と就労保障、そして、保育を必要とする子どもたちの入所を保障する皆保育の原則を位置づけてきた。子育てを取り巻く環境などが時代とともに変化しているにもかかわらず、国の施策は後手にまわっている。変化する生活スタイルや働き方、社会的状況や環境などをふまえるとともに、これまで積みあげてきた皆保育の原則を、いまこそ日本の保育制度にしっかりと位置づけていかなければならない。また、保護者集団の組織化が困難な状況も散見されており、これまでの保護者組織のあり方にとらわれず、地域の家族形態の現状、保護者の就労状況などに応じた組織化にとりくむとともに、保護者との連携を強化し、社会全体・地域全体で子どもを育てる環境づくりをすすめていかなければならない。

 来年1月24、25日の2日間、第46回全国人権保育研究集会を熊本県熊本市で開催する。

 全体会では、地元報告として、熊本県就学前人権・同和教育研究協議会の髙木裕紀・顧問から「熊本県の「同和」保育の歩み」が報告される。また、一般社団法人スタディライフ熊本の田尻由貴子・名誉顧問から「「子どもは未来の宝もの」~こうのとりのゆりかごの経験を通して~」と題して記念講演をおこなう。2007年に設置された「こうのとりのゆりかご」の立ちあげから関わってこられた田尻さんの経験をとおして、いのちの大切さについて参加者で共有し、これからの保育のとりくみにつなげよう。2日目には、八つの会場にわかれ、各テーマに沿った各地の実践報告をおこなう。

 家庭や地域、保育所・幼稚園やこども園、小・中学校、行政、企業、関係機関や団体が一体となり、各地の子どもの状況や課題を共有し、社会全体ですべての子どもの豊かな育ちを保障する保育政策を実現しよう。

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