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「人種差別撤廃条約」を国内法として機能させよう

「解放新聞」(2026.3.15-3169)

 「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する条約」(「人種差別撤廃条約」)が国連で採択された背景には、1960年に西欧諸国で反ユダヤ主義・ネオナチズムの凶暴な運動が起き、植民地支配や南アフリカのアパルトヘイトにたいする国際的な批判とあいまって人種差別への非難が高まったことがある。この動きに呼応して、国連は「人種差別撤廃宣言」を採択し、65年に法的な効力をもつ「人種差別撤廃条約」を採択した。条約実行監視機関としての人種差別撤廃委員会も設置した。いずれも国連としてはもっとも早い人権条約実行に関するとりくみであった。

 条約が採択されたこの時期、64年に米国で「公民権法」が成立し、翌年には「同和対策審議会答申」が出されているが、「日本には人種問題はない」との主張が強く、条約はあまり顧みられなかった。女性差別撤廃には「女性差別撤廃条約」があるように、部落差別撤廃には「人種差別撤廃条約」が機能することが求められている。日本では、84年3月の衆議院予算委員会で初めて、「人種差別撤廃条約」加入が議題になった。「人種差別の問題に関係して、(本条約は部落問題と)関係しているか?」の質問にたいし、政府は「地域改善対策問題についても含まれると承知しています」と答弁した。その後、94年、村山内閣で「人権と差別問題に関するプロジェクト」が、「部落差別はこの条約の対象になる」として、条約への年内加入を中間答申し、翌年、国会で条約加入手続きがおこなわれた。

 条約第1条の人種の定義にある世系(Descent)と門地との違いを質問された政府は、「門地には社会的差別が入るが、世系には社会的差別は入らない」と答弁した。すなわち、条約の世系には社会的差別である部落問題は入らないので、条約の対象にならないとした。さらに第4条の差別禁止条項は留保したうえで、条約への加入を承認した。加入は世界で146番目なのに、条約の重要な部分を除外しての加入で、政府の消極的な姿勢が表れている。

 条約への加入を受けて、国内法の整備が求められた。96年「地対協意見具申」では、人権救済制度の確立に関して、国際人権の潮流を視野に入れるべき、とされた。97年に設置された人権擁護推進審議会は、99年に人権教育・啓発について、2001年には人権救済制度について答申した。02年の同和対策関連法終了後の部落問題解決のための法整備が求められていた。

 人権救済制度についての答申を受けた政府は、差別禁止規定と人権委員会設置規定を盛り込んだ「人権擁護法案」を策定し国会に上程したが、人権委員会の権限が強い、表現の自由・報道の自由が侵害されるなどの反対意見があり、廃案になった。その後も再提出の動きがあったが、法案にはならなかった。10年には菅内閣の法務大臣が、人権擁護推進審議会からの議論をまとめて「中間とりまとめ」をおこない、人権委員会は内閣府の外局に位置づけた。12年、野田内閣が「人権擁護法案」の修正案として「人権委員会設置法案」を策定したが、人権委員会は法務省の外局と位置づけ、罰則規定や禁止規定もあり、反対が多く、法案を国会に上程したが廃案となった。その後の第2次安倍内閣で、包括的な人権法は成立させず個別法で対応するとして、「障害者差別解消法」「ヘイトスピーチ解消法」「部落差別解消推進法」が制定・施行されていった。

 部落解放同盟は、部落問題解決のために条約を国内法として機能させようと、包括的な差別禁止法制定と、国内人権機関設置を求めてきた。一方で06年、反差別国際運動(IМADR)を中心に人種差別撤廃NGOネットワーク(ERDネット)を結成した。人権諸条約報告書審査に参加するNGOが個別に報告書を提出すると審査する側に負担がかかるためで、ERDネットとして統一NGOレポートを提出し、日本政府の報告書審査でロビー活動を実施してきた。

 00年、条約加入後初めて、条約の実行状況をまとめた政府報告書(第1回、2回)が提出され、翌年に審査ののち総括所見と勧告が出された。世系の解釈をめぐり日本やインドから異論が出され、委員会は02年、「一般的勧告29」を採択した。「世系に基づく差別がカースト及びそれに類似する地位の世襲制度等の、人権の平等な享有を妨げ又は害する社会階層化の形態に基づく集団の構成員に対する差別を含む」とし、「部落差別やカースト差別」は人種差別に含むとする広義の解釈をとる。政府は人種差別ではないので含まないと狭義に解釈するが、部落民の定義は明らかにしていない。

 2回目の政府報告書(第3~6回)審査は10年におこなわれた。ERDネットは統一NGOレポートを提出した。総括所見と勧告は前回と同様である。14年の3回目の報告書審査では、差別の実態に関するデータ提示、国内人権機関設置、包括的反差別法制定、部落問題では部落民の定義と世系の定義を示すよう勧告された。残念なことに報告書には部落問題に関する言及がまったくなかった。18年の4回目の政府報告書(第10、11回)審査では、政府の実行状況にはほとんど進展がなかった。また、政府報告書には前回審査での総括所見で出された勧告の実行状況は一切記載されていない。人種差別撤廃にとりくむ姿勢は消極的である。

 昨年7月、ERDネットが「委員会が日本政府に質問すべき事項」を作成し、人種差別撤廃委員会に情報提供した。委員会と政府とが建設的な対話をおこない課題解決に向かうことができるように、ERDネット構成団体が具体的な差別の実態を整理し、質問すべき事項にまとめたものだ。そして12月、委員会は次回の政府報告書審査に向けて、報告書作成の基礎になる59項目の質問書を政府に送付した。従来の委員会からの総括所見と勧告をもふまえた報告書になるように工夫された事前質問書であり、日本での人種差別の諸問題を一つひとつとりあげ、政府の対応を問うものになっている。

 政府は質問書に答える形で報告書を作成し、1年以内の提出が義務づけられているため、今年中には5回目の政府報告書(第12回、13回、14回)が提出され、審査される。

 質問書に含まれている部落問題に関する事項を列挙する。部落民の人口構成に関する統計資料、「一般的勧告29」の世系の定義を採用し国内法として機能させるか、包括的差別禁止法制定に向けてとった措置、「パリ原則」に従った国内人権機関設置の計画はあるか、戸籍情報の濫用に関する調査、「個人情報保護法」の機微情報として戸籍情報を要配慮個人情報としてあつかっているか、オンライン上の部落にたいする差別行為の加害者への制裁はあったか、「ヘイトスピーチ解消法」を改正し禁止法として加害者への刑事的制裁を求めているか、被害者救済措置を検討しているか、人種的または民族的動機にたいする刑法上の加重状況、就職・採用に関する差別防止の措置、マイノリティ女性・部落女性にたいする複合的・交差的差別に対処する措置、教育教材に部落の歴史・文化に関する情報を含んでいるか、である。

 国内で条約を機能させるため、「人種差別根絶への多角的アプローチ―国連人種差別撤廃委員を迎えて―」をテーマに、3月16日にJICA地球ひろばで、17日に衆議院第一議員会館国際会議場で国際会議をひらく。IMADR主催、ERDネットの共催で、国連人種差別撤廃委員会のクリックリー元委員、クトゥ現委員を招き、国際状況や日本の状況を確認したうえで政府報告書審査に臨んでもらうため、また、日本の条約加入の意義をあらためて確認するためである。会議の成果が総括所見や勧告に反映され、政府が真摯(しんし)に受け止めるよう、とりくみをすすめよう。

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