
![]()
「解放新聞」(2026.6.5-3177)
厚生労働省が発表した2025年度平均の有効求人倍率は1・20倍で、前年より0・05ポイント低下し、3年連続で減少した。正社員の有効求人倍率は1倍を下回る水準で推移し、人手不足感がある一方で求人需要は鈍化傾向にある。物価高による原材料費の高騰や人件費の上昇で、求人を見送る企業が増えている。とくに小売・飲食・宿泊業で、求人を控える動きがみられる。
総務省が発表した25年平均の完全失業率は2・5%で前年差は横ばい、完全失業者数は176万人で前年と同数だった。25年平均の就業者数は6682万9000人と前年比47万人増で、5年連続の増加となった。雇用形態別にみると、正規の職員・従業員は3708万人(前年比54万人増)、非正規の職員・従業員は2128万人(前年比2万人増)となった。
こうした雇用情勢のもと、厚生労働省のとりまとめでは、面接時の不適切な質問や、不適切な項目を含む社用紙の提出要求など、「職業安定法」第5条の5(求職者の個人情報の取扱い)に抵触するおそれのある事象が、24年度に全国で854件(事業所ベース)報告されている。雇用情勢が変化するいまこそ、採用の入口で法令に反する個人情報の収集を許さず、公正採用選考を徹底させなければならない。
新規大卒求人倍率は1・66倍と高水準を維持し、求職者の売り手市場が続いている。だからこそ企業は、人材確保のためにも、コンプライアンスを土台にした公正な採用選考を徹底しなければならない。
こうした売り手市場のなか、企業は人材確保の観点からも、公正な採用選考を実現する体制を整える必要がある。その要となるのが「公正採用選考人権啓発推進員」であり、社内研修の実施やハラスメント相談窓口の設置など、コンプライアンスへの投資をあらためて強めるべきだ。あわせて、採用選考でSNSや裏アカウントの調査をおこなう事業所が増えているが、こうした調査は意図せずとも、収集してはならない個人情報を取得してしまう危険を伴う。周知・啓発の強化に加え、ガイドライン等の整備を求めていかなければならない。さらに、厚生労働省が「就職活動をしている大学生・短期大学生・専門学校生」を対象に実施している「公正な採用選考に係るアンケート調査」について、周知の徹底と、結果をふまえた改善を求めていく必要がある。
応募用紙をめぐるとりくみは、就職差別を許さない闘いのなかで前進してきた。「全国高等学校統一用紙」(統一応募用紙)は、出身地や家庭環境、家族関係、親の職業、思想信条など、能力・適性と無関係な事項で人をふるいにかける「身元調査」を排し、採用は本人の適性と能力で判断させるという原則を社会に根づかせてきた成果だ。私たちは、この原点に立ち返り、公正採用選考を形だけのルールに終わらせず、実効あるものとして徹底させなければならない。
昨年度改訂の統一応募用紙では、履歴書の性別欄が削除され、調査書の身体状況欄も撤廃された。多様な個性と尊厳を尊重する観点から、歓迎すべき前進である。しかし一方で、調査書の性別欄が残り、履歴書の写真貼付欄も維持されたままだ。これらは、性自認に悩む生徒に不必要な心理的負担を与え、外見による先入観(ルッキズム)を助長しかねない。採用選考に不要な情報は、当事者の意見をもとに、ていねいに議論を重ね、削除・見直しをすすめる必要がある。
履歴書の性別欄は、セクシュアルマイノリティ当事者にとって、就職の入口での大きな障壁となってきた。書きたくない事項の記入を迫ることは、事実上のカミングアウトの強要につながり、応募を断念させることさえある。採用選考に不要な個人情報として性別欄の削除を徹底させるとともに、採用後も当事者が安心して働き、能力を十分に発揮できる職場づくりをすすめるべきだ。相談体制の整備や社内研修の実施など、理解を広げる周知・啓発を強化しなければならない。
「国際労働機関(ILO)第111号条約」は、雇用と職業におけるあらゆる差別の禁止を掲げる国際基準である。日本は批准を急ぎ、応募用紙を含む採用選考の仕組みを、差別を生まない制度へとあらためる責務を負っている。政府と関係機関は、国際基準に照らした抜本的な見直しに、ただちに着手すべきだ。
差別につながる個人情報の収集を許さず、面接での不適切な質問や提出書類も含めて、現場の実態を見逃さないことが重要だ。行政等への申し入れを積み重ね、職場と地域での点検・啓発を強め、統一応募用紙の改訂を前進させ、就職差別の根絶を実現していこう。
就職差別をなくすうえで、労働組合が職場の内側から採用や労働条件を点検し、差別・人権侵害を見逃さない役割は大きい。雇用の入口で差別を許さない姿勢を、職場に根づかせよう。
部落解放中央共闘と全国共闘は、毎年6月を就職差別撤廃月間と位置づけ、リーフレットを作成して啓発活動にとりくみ、職場での点検活動をよびかけている。また、各府県共闘会議では、労働局や府県行政、教育委員会などに、とりくみ強化の申し入れをおこなっている。
連合が23年に実施した、近年に就職試験を受けた人を対象とするアンケートでは、応募書類やエントリーシートで「本籍地や出生地」の記入を求められたとの回答が43・6%にのぼるなど、課題が山積している実態が示された。連合は今年もアンケート調査を実施し、実態を把握し公表するとともに就職差別撤廃に向けてとりくみをすすめる。こうしたとりくみを通じて、各地で共闘会議や連合との連携を深め、就職差別撤廃のとりくみを強化していこう。
就職差別撤廃とともに、安定した雇用を促進するとりくみも重要だ。地域での生活相談とあわせて、職業相談活動を充実させなければならない。
「生活困窮者自立支援法」にもとづく「自立相談支援事業」を活用し、就職困難者の自立を支援していくことや、「ハローワークの求人情報のオンライン提供」を活用して、隣保館などでの職業相談活動を充実させていくことが大切だ。また、ハローワークなどとの情報共有を強化し、困窮者が有用な情報や施策を積極的に活用できるよう求めていかなければならない。さらに、「部落差別解消推進法」の具体化として、隣保館がない地域でも、ハローワークや自治体などとの連携を密にし、隣保館活動の実施と充実を求めていくとりくみが重要だ。だが、支援の拡充だけでは貧困の連鎖は断ち切れない。生活を不安定にする雇用のあり方そのものをあらため、格差と貧困を広げない政策へ転換することが不可欠だ。
経済効率を優先した労働法制の規制緩和は、雇用の安定を壊し、非正規・低賃金労働を広げ、格差と貧困を社会の深部まで浸透させた。派遣・有期雇用の拡大、賃金の伸び悩み、長時間労働の常態化は、労働者の生活を直撃し、将来設計を困難にしている。労働を「調整弁」として扱ってきた歪(ゆが)みが、若者の学び直しや住まいの確保を難しくし、孤立と不安を深め、未来を奪っている。ひとり親世帯の半数が困窮にあえぐ現状は、養育費や支援制度の不十分さも含め、政治が放置してきた結果にほかならない。私たちは、貧困と孤立が生み出す負の連鎖を断ち切り、だれもが尊厳をもって働ける環境を取り戻さなければならない。非正規雇用の拡大に歯止めをかけ、正規転換の促進、同一労働同一賃金の徹底、最低賃金の引き上げと生活保障の強化をすすめ、明日に希望を持てる「真に豊かな社会」への転換を、いまこそ力強く求めていこう。

「解放新聞」購読の申し込み先
解放新聞社 大阪市港区波除4丁目1-37 TEL 06-6581-8516/FAX 06-6581-8517
定 価:1部 8頁 115円/特別号(年1回 12頁 180円)
年ぎめ:1部(月3回発行)4320円(含特別号/送料別)
送 料: 年 1554円(1部購読の場合)