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「解放新聞」(2026.10.05-3189)
この間、欧州では、2000年6月の「人種差別禁止についてのEU指令」にもとづいて、包括的な差別禁止法と強力な救済機関の整備がすすむ。イギリスは10年、「平等法」を制定し、人種、障害、性別、年齢、性的指向等九つの属性にもとづく差別(交差的な差別を含む)を禁止。フランスは04年に独立した行政機関「差別禁止平等推進高等機関」(HALDE)を、08年に「包括的差別防止法」を整備。20年にはネット上の有害コンテンツを通報から1時間以内に削除させる強力な規制法を導入した。また、オーストラリアは25年12月に16歳未満のSNS利用を禁止する法律を施行。以降、こども・青少年を守る動きが高まっている。
とはいえ、巨大IT企業(GAFAM等)による情報プラットフォームの独占、世界的な排外主義やポピュリズムの台頭、右派勢力の伸張等により、民主主義と基本的人権を重視する規範が後退・動揺するリスクも高まりつづけている。このことは、日本でも注視しなければならない課題でもある。
インターネット、SNSの普及により、YouTube等での差別動画や投稿等による被差別部落の所在地情報のさらしやアウティング(識別情報の摘示)、拡散が深刻化している。埼玉・新潟・大阪で訴訟中の鳥取ループ・示現舎による「部落探訪」のみならず、「学術・研究」を標榜し、過去の出版物を題材にして、被差別部落を動画等で配信するなどの模倣犯も増えてきている。
「全国部落調査」復刻版出版事件の裁判で「差別されない権利」が認められ(2024年12月確定判決。以下、確定判決)、埼玉の「部落探訪」削除裁判では、「情報の連鎖性」の問題にまで言及した判決が出された。
「情報流通プラットフォーム対処法」(以下、「情プラ法」)の制定で、前述の「差別されない権利」に関して「情プラ法」第26条ガイドラインに確定判決の判例が例示されたことにより、削除基準のレベルアップが期待されていたところでもある。
2025年から本格運用が始まり、指定された大手プラットフォーム事業者(以下、指定事業者)9社(8月末に新たに4社が指定され、13社)に、(削除等の)対応の迅速化と(基準等の)運用の透明化が義務づけられた。しかし、被害を受けた個人が、当該の指定事業者のアカウントを登録しなければ削除要請ができない等々の負担が大きく、指定事業者ごとに対応姿勢に格差が明らかとなっていて、被害者の救済はもとより、被害の防止にもつながっていないのが現状である。
一方、日本労働組合総連合会(連合)の「就職差別に関する調査2026」の結果が公表されたが、採用試験で戸籍謄(抄)本の提出を求められた割合は39・1%(19年調査は19・4%、23年調査は30・8%)、また企業による求職者の「SNS裏アカウント調査」は21・8%(23年調査は10・7%)と倍増した。
ネット上の「識別情報の摘示」の流布・さらし・拡散が、結婚・就職時の差別身元調査や不動産取引での被差別部落の忌避を目的とした土地差別調査を助長していることが大いに懸念される。大阪では、ある企業のウェブ記事がSEO(検索最適化)目的で「学校選択制」と「被差別部落」を不適切に関連づけ、被差別部落への忌避意識を助長し、あおる事件が発覚した。
また、兵庫県庁前で複数人の「知事支持者」が、県政に抗議する市民にたいし差別発言をくり返している事件で兵庫県連は、兵庫県にたいし一連の行為停止を求めた。彼らは、被差別部落出身者だけでなく在日コリアン、障害者、沖縄県出身者や在日クルド人などにたいしても賤称語や侮辱の意図をもった表現を使い、差別をばらまきつづけている。
施行10年を迎えようとしている「部落差別解消推進法」に関して、あらためてその意義と今後の課題を確認しておきたい。
同法は、国・自治体が永らく用いてきた「同和問題」ではなく、「部落差別」を法律名に初めて冠した恒久法である。そして「現在もなお部落差別が存在する」と明記し、差別が存在するか否かの「不毛な議論」に終止符を打ったことに画期的な意義があった。2016年以降、各自治体で「部落差別解消条例」が制定され、その意義の大きさを物語っている(8府県・142市町村(1自治体で2条例あり)、地方自治研究機構調べ)。
とはいえ、与野党議員提案による理念法として制定されたため、法的実効性を担保する枠組みが決定的に不足している。第1に、法律名に記されたものの、部落差別の定義が定められていない。第2に、結婚や就職、不動産取引等に関わる身元調査・土地調査の問題、ネット上の識別情報の摘示など個別具体的な差別言動を「違法・不法」とする禁止条項も罰則も置かれていない。第3に、前2点とも関わって、部落差別を受けた被害者を保護・救済する第三者機関が存在しない。第4に、国・自治体にたいする「基本方針」「基本計画」の策定義務や必要な財政支援が明記されていない。これでは、部落差別解消に向けた施策は地方自治体の姿勢に依存することとなり、著しい格差が生じてしまう。
政府が個別の人権課題ごとに法整備をおこなうというアプローチをとるのであれば、私たちは「部落差別解消推進法」の強化・改正を求める運動を積みあげていこう。
1点目に、各地域での部落差別の今日的現状と課題を「立法事実」として、理念法では限界を示していることを強調し、より実効性ある規制・救済法の確立に向けてとりくむことである。前述した「部落差別行為の禁止規定の新設」「基本計画等の策定義務化と財政措置」「第三者機関の設置」、そして「被差別部落当事者主体の実態調査の実施」などを位置づけるよう求めたい。
2点目に、各自治体の「人権条例」「部落差別解消条例」の制定・改正を推進していく、そのうねりを国の法律へと反映させるエネルギーとすることである。福岡県(部落差別事象の防止等の規定)や鳥取県(ネット投稿削除要請・過料規定)、和歌山県(身元調査・土地調査等の規制と勧告・公表制度)や三重県(差別解消調整委員会の運用)、神奈川県川崎市(ヘイトスピーチにたいする罰則規定)や兵庫県市川町(部落差別事象対応委員会)など先進的な自治体条例のとりくみを参考に、地域の実情に合わせてヨコ展開をめざすなど、地方からのうねりを法制度改革につなげていきたい。条例は国の法律を超えることはできないが、条例で対応できない政策課題は法改正への「立法事実」となり得る。ねばり強くとりくんでいこう。
3点目に、人権教育の抜本的強化である。ネット上で受けた権利侵害等にたいする「発信者情報開示請求」や「情プラ法」対応の削除要請に関わる手続きに関して、被害を受けた個人の負担感は非常に大きい。だからこそ「差別されない権利」を保障する、一人ひとりみずからの尊厳を守る主権者としての教育、権利を行使するために必要な法制度や救済手続き等々を学ぶ実践的な人権教育を充実・強化することが重要である。
水平社運動の前夜から、部落差別の解消は、たんに特定の被差別当事者の権利回復にとどまらず、日本社会全体の民主主義と人権規範を底上げする、その根幹をなす課題である。そしていま、確定判決が認めた「不当な差別を受けずに平穏な生活を営む人格的利益」を法律上に規定させていくことをめざす運動でもある。理念法にとどまる現行法を実効性のある「禁止・救済法」へとアップデートしていく運動を推しすすめよう。
部落解放・人権政策確立要求第2次中央集会を、10月28日、東京・ニッショーホールでひらく。差別解消3法の施行から10年。デジタル空間での差別情報の拡散等が被差別当事者の尊厳と平穏な生活を脅かしつづける現実と、理念法の成果と限界を直視し、部落差別撤廃と人権確立に向けたとりくみの強化をよびかける。

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