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狭山事件

狭山事件資料室

解説 証拠開示の経過と現状

検察官の不当な証拠隠しはこれ以上許されない

1.証拠開示求めつづける弁護団

 弁護団は、検察側に全証拠の開示を一貫して求めてきました。第2次再審請求においても、ただちに証拠開示請求をおこないました。1988年、ようやく芋穴のルミノール反応検査報告書が開示されましたが、かんじんの殺害現場のルミノール反応検査報告書はないとしていまだに開示されていません。

 1995年、弁護団は、足跡写真や石川さんが脅迫状を練習させられた用紙、証拠リストなど六点にしぼった証拠開示請求をおこないました。

 しかし、検察官は、弁護団の求める証拠は存在しないとして、これらの証拠もいまだに開示されていません。

2.証拠リストの開示が必要

 検察官が、一方的に「その証拠はない」として証拠開示を拒みつづけることは不当です。また、検察官は一方で、証拠を特定して開示請求するように言いますが、弁護側はどうしたら証拠を特定できるのでしょうか。弁護側には、どんな証拠が捜査段階で集められ、検察官の手元にあるのかまったくわかりません。自由権規約委員会の委員も、「弁護人はどんな情報が存在するのかさえ知らない」ではないかと指摘しています。(資料3)

 狭山事件でも検察官は、証拠リスト(証拠の標目ともいう)があることは認めています。弁護団は、一貫して証拠リストの開示を検察官に強く求めてきました。

3.国連・人権規約委員会が証拠開示を勧告――証拠開示は国際基準

 国際人権規約を批准した締約国は五年ごとに、国際人権規約の国内での実施状況について報告書を提出する義務があります。1998年秋、国連の国際人権規約委員会は、日本政府から出された第4回報告書の審査をおこないました。

 部落解放同盟中央本部は、狭山事件についての報告書を委員会に提出し、直接委員にも会って、狭山事件で証拠開示が保障されていない実態を訴えました。

 日本政府の報告書の審査は1998年10月28日、二十九日にジュネーブの国連本部でおこなわれました。その審査のなかで、複数の委員から狭山事件にも触れて日本では証拠開示を受ける権利が保障されていない問題が指摘されました。

 そして、委員会は、11月5日に採択した最終見解において、日本政府に弁護側の証拠開示を受ける権利の保障を勧告したのです。5年前の第3回報告の審査においても証拠開示が勧告されていましたが、今回は2度目のさらに強い勧告が出されたのです。(資料3)

4.未開示証拠が2メートルもあることが明らかに。しかし証拠開示されないまま不当に再審が棄却

 この国連の勧告もふまえて、弁護団は証拠開示を求めて、さらに東京高検の担当検事と折衝をおこないました。その間、国会での追及や住民の会などによる連続要請行動も積み重ねられ、1999年3月の折衝で、東京高検の會田検事は、「手元の証拠を整理したところ2~3メートルある」と認めました。しかし、これら膨大な未開示証拠はいまなお東京高検のどこかに眠っているのです。

 弁護団は、こうした証拠開示の経過を東京高裁の高木裁判長にも伝え、裁判所からも開示を勧告するようくりかえし求めました。ところが、高木裁判長は、弁護団の主張を無視したまま、昨年7月9日、抜き打ち的に再審請求を棄却したのです。

 石川さんは、検察官の手元に多数の証拠があることがわかっていながら、新証拠になる可能性のあるそれらの証拠を一つも開示されないまま、再審請求を棄却されたのです。あまりに、不当・不公平な裁判と言わねばなりません。

5.検察官の不当な証拠隠しはもうこれ以上許されない!異議審のいまこそ全証拠開示を!

 しかも、東京高検の担当検事は、その後あいついで交代し、いっこうに証拠開示の折衝はすすまないまま、異議審も1年あまりが経過しているのが現状です。検察官のきわめて不誠実・不当な姿勢を示しているといわねばなりません。東京高裁の高橋裁判長も証拠不開示を見過ごすことはできないはずです。

 これ以上、検察官の不当な証拠隠しは許されません。2メートルという多数の証拠が具体的に明らかになり、国連の勧告が出され、司法改革の動きの中で証拠開示を求める声が法学者、弁護士からも大きくなってきている、この異議審のいまこそ、証拠開示とくに証拠リストの開示をかちとることが必要なのです。

 山上弁護士の報告にもあるように、弁護団は、証拠開示の実現にむけて、証拠開示の権利としての主張をふくむ研究・調査をすすめ、さらに、検察官との具体的な折衝を積み重ねていくことにしています。わたしたちも、学習と教宣を強化し、各地から、検察にせまる証拠開示の大きな世論をつくっていきましょう。

6.証拠開示はなぜ必要なのか…… えん罪の教訓、再審の理念をふまえるべきだ

 公平な裁判というために、検察官が持っている証拠を弁護側にすべて開示することは市民の常識的な感覚としてあたりまえです。とくに証拠リストを開示して、どんな証拠があるのかを弁護側に明らかにすることは当然の大前提だと言えます。日弁連の証拠開示立法要綱でも証拠標目を開示し、そのうえで証拠を特定して開示をおこなうという方法が提言されていますし、多くの法学者や弁護士も証拠標目の開示の必要性を指摘しています。あくまで証拠の表題のリストを明らかにするだけなのですからプライバシーの侵害の恐れなどありません。証拠リストの開示は当然というべきです。

 これまで再審で無罪が確定したえん罪・誤判事件では、弁護側の請求に対して、裁判所も検察官に証拠開示を促したりして、実際に証拠開示がおこなわれ、それが再審開始のカギになっています。免田事件や梅田事件のように、証拠リストが開示された前例もあります。

 これまでのえん罪の教訓からしても、誤判防止のために証拠開示が必要不可欠であることを示しているのです。イギリスやカナダではえん罪の教訓を生かして、全面的な証拠開示が検察官に義務づけられるようになっています。

 誤判防止のために証拠開示を確立する必要性を指摘する法学者はたくさんいます。(資料参照)とくに、現在の日本の再審制度は新証拠を再審開始の要件としているのだから、弁護側への全面証拠開示は当然だという指摘は説得力があります。検察官手持ちの未開示証拠のなかに再審開始の新証拠になる可能性のある証拠があるからです。誤判から無実の人を救済するという再審の理念からしても証拠開示は当然なのです。

 1999年には政府の司法制度改革審議会がスタートしましたが、司法改革のなかで証拠開示を確立すべきだという法学者や弁護士の意見も出されています。国連の勧告もふまえて証拠開示を保障すべきだという声はどんどんひろがってきているのです。わたしたちは、具体的に狭山事件の証拠開示を訴えるとともに、証拠開示の保障を司法の民主的な改革の一つの課題として、幅広い運動をすすめていく必要があるのです。

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